11-15
(――どうかご無事で、ケイさん)
指を組み、祈るような気持ちで彼等を見送ったココロはただひたすら、その場に佇んでいた。
次々に出発していく仲間を見送りながら、行ってしまった思い人に仄かな想いを寄せる。
てっきりあの子が好きなのだろうと勘違いしていた彼の思い人。
だから諦めようとしていた。
不良達と走るその背中を見守るだけで十分なのだと思っていた。
傍にいるだけで幸せなのだと思っていた。
どこかで不満足する自分がいたけれど、気持ちに目を瞑り、好(よ)き友達としてあり続けようと心に決めていた。
『俺の好きな人は弥生じゃないんだよ』
真っ直ぐ過ぎる言葉、直視してくる瞳、緊張した表情。
まだ言葉という目に見えぬ形にはしてもらっていないけれど、彼の気持ちを察してしまった。そこまで鈍い女ではない。彼の取り巻く空気と言動に察してしまったのだ。
本当はあの場で彼の気持ちを聞きたかったのだけれど……でも約束した。予約した。
遠回しとおまわし気持ちを伝えてくれる、と。
あの時の彼は緊張に緊張しながらも『ココロに言いたいことがあるから』、照れ隠しするように頬を掻いて『予約な』、ちょっとぶっきら棒に言葉を紡いでくれたのだから。
彼は知らないだろう、泣きたいほど嬉しかった自分の心情を。
小中学校時代に根暗だからと苛められ、好いてくれる人など現れないと思っていた。
高校に進学して響子と出逢い、好いてくれる人が現れてくれた。
弥生やヨウ達とも出逢い、好いてくれる喜びを噛み締めるものの、度々耳にする恋話には無縁なのだろうと思っていた。
だって自分は地味だし、すぐに言葉が詰まりオドオドしてしまうし。
それでも自分の感情を見透かした響子は言った。
『ココロ、アンタにだって好きな奴が出てくるって。好きって想ってくれる奴がいるさ』
『そ……そうでしょうか? 私……こんな性格ですし』
『いる。アンタを男にやるのは勿体無いけど、ああ勿体無いさ。勿体無さ過ぎて、男にやりたくねぇけど、大切な事だから二度言う。
勿体無さ過ぎて男にやりたくねぇけど……絶対に好きって想ってくれる奴がいる。うちが保証してやるって。アンタ、良い性格してるんだしさ』
自分を励ましてくれた姉分的存在の響子、彼女もまた魅力ある姉御気質の女性だった。
彼女のようになれたならば、好きと想ってくれる男性が現れてくれるのだろうか。
当分、恋愛とは無縁だろうけれど、せめて彼女のように魅力ある女性になるよう努力しよう。そう思っていた。
ひょんなことからヨウが舎弟を作り、自分と似たような地味っ子を連れて来た。
最初は親近感、次第次第に不良と頑張って走るその直向きな姿に目を奪われ、いつしか心も奪われ……最初に気持ちを見抜かれてしまったのはやっぱり姉分の響子。
直球に『好きなのか?』聞かれ、酷く狼狽した記憶がある。
あらさま肯定してしまった態度に一笑した響子は、彼のどこが好きなのか理由を尋ねられた。
誤魔化しても醜いだけだろうから、正直に答えることにした。
大きな契機はないと思う。
ただ惹かれたのだ、不良と直向きに走るその背中に。
弟になった契機がクダラナイ理由でも、舎弟に向いていないと周囲から鼻で笑われても、異色コンビだと言われ続けても、ヨウの舎弟として努力している彼の姿に目を奪われていたのだと。
不良とあんなにも親しげに話せる同類に凄いと思ったし、惹かれたし、憧れも抱いた。
口にすればするほど不確かな気持ちが確かな気持ちへと変わっていった。変わっていってしまったのだ。
(片想いで終わると思っていたのに……ちゃんと伝えよう。ケイさんに、この気持ち。頑張って伝えよう)
強い決心を胸にココロは気持ちを切り替え、同伴する弥生のもとに駆けた。
『エリア戦争』で直接的な活躍の場はないけれど、裏方でチームを精一杯支えよう。
そして、終わったら告げるのだ。ちゃんと……ちゃんと逃げずに告げるのだ。
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