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11-14



「浅倉。テメェにすべてが掛かってるからな」


ヨウは浅倉さんの肩に手を置き、榊原を倒すのはお前だと視線を投げる。

浅倉さんはやや迷いのある顔を見せていたけれど、それを振り切ってヨウの手を軽く払うと「行くぞ」全員に強く指示。

雄叫びにも似た返答ともに不良達は行動を開始する。


皆が動き始める中、俺も愛チャリの鍵を解除して跨るとハジメを呼んだ。

これから俺はハジメと一緒に行動するんだ。
喧嘩できない不良&地味っ子コンビなんだぜ!

ははっ、襲われたら最悪だな! 逃げるしか手立てがねぇ! 自慢にもならないけど逃げ足だけはピカイチだ! まっかしとけ!


「うわぁ……ケイのチャリの後ろに乗るのって初めてだな。できるだけ優しく運転して欲しいんだけど」


俺と同行するハジメがおずおずと申し出。

勿論却下に決まっている。優しい運転イコール、それは穏やかなスピードでほのぼのとサイクリングを楽しみましょうなレベルだぞ。

そんなんじゃな、直ぐに捕まってフルボッコなんだぜ?!
嫌だぜ、フルボッコなんて。おりゃあ、もう二度と経験したくないね。あんな痛い思い!

「しっかり掴まっといてくれよ」

肩を握り締めとけ。チャリに同乗する初心者に助言をしてペダルに足を掛ける。


「ハージメ。ケーイ!」


いざ出発しようとする俺等のもとに弥生が駆け寄って来た。

走ることによって生み出される風に、持ち前の染めた長い茶髪を靡かせながら。

立ち止まるや否や弥生は携帯を取り出して、再三再四連絡について確認。

喧嘩のできない俺等はある意味喧嘩の連絡係、少しでも怠ると勝敗に左右されかねない。

お互い十二分に確認した後、弥生は携帯をブレザーのポケットに突っ込むと「無理しないでね」優しい言葉を掛けてくる。

俺達に言ってくれているようで、直接的に気持ちとして伝えたいのは俺の後ろに乗っている奴だろう。彼女の焦点は後ろに定まっている。


「チームのためだからって、無理をしたら一緒だよ。自分にできることをすればいいんだから」

「うん、弥生も……直接現場に行かないとしても襲われないとは限らない。だから、気を付けてくれな」

「馬鹿、私よりもハジメじゃんか。ハジメは時々びっくりするくらい無理をするところがあるし! 無理をして馬鹿をしたら私……ハジメを困らせるよ。泣いて困らせるからね」


「それは困るなぁ……弥生の泣き顔だけは見たくないし」


おうおうおう、どーやら田山はアウトオブ眼中らしい。
なんだお前等、人を無視してリアリアの充実した時間を過ごしやがって。傍にいるだけでごちそーさましたい気分だよ!

ハンドルに肘を付いて頬杖、俺は二人のやり取りを傍観することにした。いや、この場合は傍聴?

とにもかくにも完全に二人の世界に浸っているハジメと弥生を交互に見やり、深い溜息をついた。
蚊帳の外に放り出された田山圭太は空気と化している。無いものして扱われているよ。


ああもう、こいつ等の会話を聞いてるだけで甘ったるい気分になるんだけど。アツいよな、この二人。早くデキちまえばいいのに


わざとらしい溜息をついて会話を待つことにする。

二人のバレバレな気持ちを含む会話に気付かぬ振りをしてやり取りが終わるのを待つ。待つ。待つ……結構苦痛だなおい! 余所でやってくれってカンジなんだけど!



「ん?」



俺はふっ、と顔を上げて首を動かす。


少し距離が離れた向こう側に視線を投げ掛けてくれているひとりの女の子。

チーム内で唯一同類の少女は響子さんの傍にいながらも、こっちに眼を向けてくれていた。

俺の視線に気付いた彼女は、ハニカミを作ると小さくちいさく手を振ってきてくれる。


その小さな仕草でさえ胸が熱くなる。

不思議と胸が火照るんだ。
動作一つひとつに炎系魔法でも掛けられているみたいに彼女の動きだけで、かち合う視線だけで、綻ばれるだけで胸が熱を帯びる。

冷ますように、俺も小さく手を振り返して柔和に表情を崩す。

すると彼女は口だけ動かし、俺にメッセージを送ってきてくれた。

小さな距離という溝があっても伝わってくる彼女の気持ち。


簡単でありきたりな四つの語、『が ん ば れ』


有り触れた単語だけど、俺にとってかけがえのない糧になる言葉だ。

どうしてかな、彼女が言葉を紡いだくれるだけで俺の胸に大きく響くんだ。馬鹿みたいにさ。


向こうに分かるように頷いて、「そろそろ行くぞ」俺はハジメに声を掛けて二人の会話を打ち切らせた。

悪いけど、俺等もそろそろ行動しないと……時間は惜しい。

計画が狂ったら、俺等がヨウや浅倉さんにシバかれる。


俺は弥生に気を付けてと言葉を掛け、向こうも俺に掛けてくれ、挨拶を交わしてペダルを踏む。


発進するチャリ、風を少しずつ頬で感じつつ、俺は最後にもう一度だけ彼女に視線を向けた。


向こうにいてもまるで見送りをしてくれるように瞳はこっちを捉えていた。だから俺は相手にできる限りの笑顔を向けた。

そっちも頑張れ、怪我だけはしないように。その意味合いをたっぷりと籠めて。




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