狼煙を上げる準備はできた
◇
「榊原チームが動き出した。どうやら奴等は今日一日でカタを付けるみてぇだ。協定を結んでいる不良チームと南門に入り浸っているらしい。幸い協定を結んでいる不良チームの中に日賀野達はいないようだ」
なるほど。
確かに日賀野達はちょっとやそっとじゃ動くことのない名高いチーム。
自分達にとって利得があるかないか、もしくは面白いことがあるかないかによって動きが変わっていく。
エリア戦争という規模の大きい喧嘩があると知ってはいれど、まだ自分達の動く基準にまでは達していないのだろう(俺等が加担していると知ったその瞬間、参戦して悪戦を強いられるに違いない!)
けれど榊原は策士だ。
例え日賀野達の姿は見えなくとも、頭数を増やし周囲のチームを圧倒させることによって他のチームを萎縮させる。
そこを一気に畳み掛け、テリトリー争いの覇者になろうとしている寸法だ。狡い。
「チッ」
ストレスを解消するために吸っていたであろう煙草を地に落としたヨウは、忌々しそうに先端を靴底で踏み潰した。
「例の作戦でいく。これ以上、手をこまねいているわけにもいかねぇ。向こうに動きがあったのなら、こっちも動き出さないとヤラれちまう。何事も、先手必勝だ」
作戦は弥生の発言で閃いたハジメのスピード作戦。『別名:強行突破&誘導作戦』だ。
俺達は今から三つのグループに分かれて行動を起こす。先陣切るのは少数バイク&チャリの二グループ。
バイクはともかくチャリってのが笑えるんだけど(だって不良がチャリンコで喧嘩に挑むとかカッコ悪! 俺は別として!)、とにかく二手は人間の足よりスピードのある乗り物に跨って東西チームを挑発・誘導する。
勿論喧嘩をするわけじゃない。
できるだけ両チームを挑発して怒らせた後は、チームを誘導して両チームを鉢合わせる。
その後は野となれ山となれ。勝手に向こうが喧嘩をおっ始めてくれるだろう。
そして待機をしている最後のグループは合図があり次第、強行突破を開始。
喧嘩しているであろう二グループの間に割って入るようにバイクやチャリで突破する。先陣切った二グループは紛れて合流。みんなで榊原チームを倒しましょう作戦に移る。
ちなみに俺は三つのグループの何処にも属していない。別の任務を任されている。
極端に喧嘩ができない奴等は俺と同じように別の任務を任されているんだ。それは男女関係なしに任される、ある意味重要な任務。
俺は喧嘩をしている皆の余所で、ちょいと愛チャリを跨いで別任務を頑張ってきます! 間接的には喧嘩に関わる任務なんだけどさ!
……ははっ、こわっ。ガチな話、喧嘩なんて怖いっつーの! 慣れないよな、これだけは。
今日、家族に会えるかなぁ! マジで泣きそうなんだけど!
今日即決でエリア戦争に挑むとか予想すらしなかったよ。心の準備は大切だって! ぶっつけ本番でライブの舞台に立つ気分だ!
「いいか、負けの喧嘩に興味ねぇ。力の弱小なんざ思って尻込みする奴がいたらその場で焼きを入れてやる」
ガタブルと心中で震えている俺の傍らで、ヨウは倉庫に集まっている手前のチームと浅倉さんチーム両方に勝つ気でいろと一喝。
人三倍負けん気の強いヨウは、喧嘩に対する『敗北』という二文字が大嫌いだ。腕っ節がある分、プライドも高いんだろう。
少し前のヨウなら、ただそのプライドを守るために、仲間内を守るために使う力だっただろうけど……今は違う。
傍若無人に腕っ節を使うんじゃなく、一端のチームの頭として、その力を有効且つフルに発揮しようと努めている。
もともとリーダー気質が備わっていたヨウだ。
しっかりと立場を自覚すれば、その力はグングン右肩上がりに伸びていく。今のヨウはチームの顔そのものだった。
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