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だけど。



「結局勝ち負けに関わらず相手を見ている俺がいるんだ。気にしない振りをしようとしても、いつの間にか相手のことを考えている。何気ない仕草に振り回されているんだ。どーしても何かせずにはいられないから。勝てそうになくても、最近は……」

「最近は……?」


一呼吸を置いて肩を竦めた。


「気持ちを伝えようかなと思う俺がいるんだ。何でだろう。今までの俺だったら、きっと行動を起こそうとも思わなかったのに」


でも、今の俺は何もしないで終わりたくないと思っている。往生際がワルイコトに。

ヨウ達と出会ってから、負けず嫌いっつー厄介な面が俺の中で見え隠れしている。

どうしてもこれでおしまいにしたくない。
どうせならスッキリとフラれて、失恋をヨウに慰めてもらって、これからもイイオトモダチでいましょう的に仲良くしていきたい。

こんなことを思う俺は随分と考え方が成長した。

今までだったらムリの一言で終わって、自然と気持ちを消そうとしていたのに。


「恋愛に対しては消極的だったんだけどさ。ちょっとだけ積極になってみようと思ったんだ。好きな子に気持ちを伝えてみたい。結果が分かっていても、好きだと相手に言いたいんだ。フラれたら舎兄がラーメンを奢って慰めてくれるだろうしさ」


いつもの口調で淡々と片恋相手に自分の胸の内を明かす。

勿論、明かしている相手が俺の好きな人です、とはまだ言えないけど……予行練習程度にこんくらいは告げてもいいよな。

俺の告白に呆気を取られていた彼女が、真っ直ぐ俺を見つめて瞬きをしてくる。

次第に我に返り始めたらしく、「凄いですね」ボソボソと蚊の鳴くような声を出した。


「ケイさんは……本当にお強いですね。私だったら恐くて気持ちなんて伝えられません。相手に迷惑になるんじゃないかと思ってしまって。私の好きな人にも、実は他に好きな人がいるんです。思いを告げれば、その人を困らせてしまうんじゃないか……怖じてしまうんです。関係を壊してしまうかもしれません。だったら伝えないほうがマシかもしれない。そう思ってしまって」


手に取るように分かるココロの気持ちに、「俺も恐いよ」正直に吐露。

人に自分の気持ちを伝えようとする行為は恐い。すっげぇ恐い。

今まで告白という行為をすべて諦めることで避けてきたんだ。
その行為に立ち向かうとなれば、そら恐いだろ。

男でも女でもやっぱり恐いと思うよ。相手に自分の気持ちを告げるって。


それでも俺はヨウに教えてもらった。

伝えられる時に気持ちを伝えられる大切さを。本当は嫌だっただろうに、ヨウは自分の恋愛話を持ち出して俺を励ましてくれた。背中を押してくれた。何気ない気遣いで応援をしてくれている。応えないわけにはいかないじゃないか。


今はちょっと無理だけど……『エリア戦争』が終わったくらいにジミニャーノの勇気を振り絞って告ってみようと思う。

これでフラれたらっ、ええいっ、自棄食いしてやらぁ! 舎兄が奢ってくれるって約束したんだぜ! 食えるだけ食ってやる!

おおっ、田山圭太、男になったじゃないか!
これで顔が少しでも良くなれば、完璧(パーフェクト)なんだけどな! 


「きっと今までの俺は自分が傷付きたくないから、告白という行為を避けていたんだ。傷付くくらいなら諦めよう。どーせ俺じゃ相手にされないだろうし……いつもそう思っていた。でも今回はちょっと勇気を出してみようと思う。ま、地味くんでもやれます根性を見せてみようかと……な?」


おどけ口調で言うと、それまで静聴していたココロが柔和な笑みを浮かべた。

それは俺に向けてくれる、俺にだけに向けてくれる、名前通りの心優しい微笑。


「ふふっ。何だかケイさん、凄く自分を持っていますね。私と似たタイプなのにケイさんはとても強いです。私も見習いたいなぁ。何だかケイさんに勇気付けられた気がしました。気持ちかぁ……私も伝えてみようかなぁ」


癖になっているであろう指遊びをやめて、彼女は俺に小さな決意を零す。

「一緒に頑張ってみる? 告白」

どっちが告白ができるか競争してもいいよ。
口軽に言う俺に、競争はやめておくとココロ。

けれど頑張ってみたいと遊んでいた指を折り曲げて握りこぶしを作る。


「頑張れるだけ頑張りたい……ような気がします。私、以前も言ったようにずっと苛められっ子で。ウジウジ、グズグズばかりしては相手の顔色ばかり窺っていました。今だってそうです。響子さんのおかげで随分、性格は改善されたんですけど、今でも自分の発した発言に一々相手の顔色を窺ってしまって。
相手に嫌われないか、癪に障らないか、また苛められたりしないか……オドオドする自分がいるんです。根暗で卑屈になってしまう自分がいることに嫌悪したり、意志の弱い自分に落ち込んだり、相手に流されてしまう自分に溜息をついたり」


「気持ちは分かるよ。俺も人の顔色を窺うことが多いから」


「これでも幾分マシにはなった方なんですよ? 響子さんと出逢って、ヨウさん達と一緒に過ごすようになってからは学校という公共施設が楽しくなりました。響子さんや弥生ちゃんが支えてくれたから、クラスの皆とも仲良くできるようになりましたし。
やっと前向きになれる自分を掴めました。それは不良さん達の出逢いのおかげ。学校では恐れられている不良さん達がこんな私に優しく、そして仲良くしてくれたおかげなんです」


俺だってそうだ。

不良の出逢いで俺は今までにない俺を手に入れることができた。




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