11-09
阿呆みたいに心臓が鳴っている。鳴ってやまない。
ヨウが何度も『攻めろ』とか『言葉にしないと分からない』とか、背中を一蹴してくるもんだから、真面目に彼女を意識する俺がいる。くっそう、平常心だぞ平常心。
「ありがとう。いやさ、ちょっと感傷に浸っていたみたい」
無難な言葉を選んでココロに笑みを向ける。
たっぷり間を置いて、「ケイさん……恋をしているんですか?」度肝を抜く疑問をぶつけてきた。
ドッジボールで剛速球を鳩尾に食らった気分だった。まさか、ココロからそんな質問をぶつけてくるなんて。
「ま、まっさか」
見え見えの嘘をつく俺の動揺は表に出ていたようだ。
面白おかしそうに一本取ったと彼女は悪戯げに頬を崩し、目じりを和らげた。
なんてこったいジョニー!
いっちゃん知られたくないココロに恋心を見破られてしまうとは、どういうことだいマックス! マーックス!
……もしかしてココロにばれた? 俺の気持ち。
試練か、これは試練の時なのか!
ああくそっ、ノリで誤魔化すか?
それともノリノリで「君のことが実は好きなんだぜベイベー」とか言っちゃう?
キャラじゃない。
イケメンじゃない俺が告るなんてギャグにしかなんねぇ。
そういうチャラけた台詞はヨウみたいなイケメンくんが言って許される台詞! 俺が言ったらサブイ告白だ!
取り敢えず、お、落ち着け俺。
まずココロが本当に気持ちに気付いているかどうか、それを探るのが先決だろ。
もしも気付いているのなら、腹を括って言おう。失恋ドンマイで気持ちを伝えよう。
ヨウは言っていた。
気持ちが言えるチャンスがある時ほど羨ましいものはない、と。
あいつはチャンスを逃して帆奈美さんに気持ちさえ言えずに敵対しちまった。
本当は辛いんじゃないかな。
日賀野達と敵対したことや、大好きだった帆奈美さんと敵対したことに……本当は。
片隅でヨウのことを考えながら、「どうしてそう思うんだ?」ココロに理由を聞いた。
間髪容れずに女の勘だとココロは笑みを浮かべる。スッゲェな、女の勘。怖いくらい鋭いぞ。
誤魔化しても見苦しいだけだろう。
俺は間を置いて頷いた。
どっかの誰かさんに恋をしている、と。ココロと同じだと付け足して。
すると彼女はひどく動揺したように頬を真っ赤に染めた。
「なんでそう思うんですか?」
相手の問い、
「男の勘だよ」
俺はおどけ口調で目尻を下げる。
小さな唸り声を上げるココロは否定しなかった。
露骨に態度に出してしまったゆえに、否定しても無駄だと思ったのだろう。態度で肯定をしてくる。恋をしている、と。
お互いに少しばかり口を閉ざす。
不意に腰を上げ、制服についた砂を払いながら俺はココロに、ちょっと外で話そうかと誘い出す。
安易に此処で話す内容じゃないと思ったんだ。それに二人だけの方が話しやすい。
此方の気遣いに気付いたココロはこっくりと頷いて誘いに乗ってくれた。
『エリア戦争』のことについて真剣に話し合っている両チームの目を盗み、俺とココロはこっそりと倉庫の外に出る。誰にも気付かれないよう、こっそりと。
倉庫の外に出た俺達はまだ青々としている空の下、倉庫裏に回って積み重ねられている木材に腰を掛ける。
それまで始終ダンマリだった俺達だけど、木材の軋み音を合図にココロが口を開く。
俺の恋ならきっと叶う。きっと大丈夫だ、と。
根も葉もない言葉だけど、ココロなりに応援してくれるんだと分かった。
どうやら気持ちまでは見抜かれていないみたいだ。
微苦笑を零す俺は、「どーかな」ちょっと弱気に返答。
何故なら俺の片恋相手には別の片恋相手がいる。
恋が成就するかと言われたら、かなり低い確率だと思う。
「俺の好きな奴には他に好きな奴がいるんだ。どーしても、そいつに勝てそうにないんだよなぁ。向こうの方が二枚も三枚も上手(うわて)だから。俺なんか逆立ちしても勝てそうにないよ」
かぶりが千切れるほどココロは首を横に振った。
「そんなことないですよ。ケイさん」
「いやぁ、相手と俺を比較したら、確実に負けているんだよ。現在進行形でさ」
なーにせ、好敵手は……まさか、まさかの俺の舎兄なんだぜ?
イケメンで不良で喧嘩が強い。
んでもって最近はリーダーシップを惜しみなく発揮してくれている。仲間思いだし、女の子にモッテーだろ?
勝負するまでもない。
敗北がどっちを指すかと言ったら、やっぱ俺だよな! 敗北は俺のために用意されているものだと思う!
負けるとは分かっているんだ。相手を困らせるってことも分かってはいるんだ。
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