11-05
完全に蚊帳の外に放り出された俺は、壁際に腰を下ろし、立てた膝に肘を置いて傍観者になる。
何度も不良にボールをぶつけてはそれを拾い上げる弥生、逃げ惑うハジメ、ほんと良いコンビだよな。
お互いに恋心に気付いているのか、やや意識をした鬼ごっこをしている。
卑屈になりやすいインテリ不良には弥生みたいなムードメーカーが必要なんだろうな。
弥生はいつだって仲間内の鬱々とした空気を散らしてくれる雰囲気作りの名人だから。
出逢った当初からそうだった。
俺が初めて不良の喧嘩に関わって成り行きで弥生を助けたあの日、俺は弥生に笑顔で礼を言われた。
花咲くような、その眩しい笑顔に照れてしまった。
女の子に心から感謝なんてされたことがなかったから、余計嬉しかった。
今までの片恋パターンから言えば、フツーに弥生って俺のタイプだと思う(不良を抜かしたら、の話だけど)。
ああいうムードメーカーはとてもノリが良いから、調子乗りの俺にとって凄く親しみやすい。
今までの俺は明るくてノリが良い、気兼ねなく、それでもって喋りやすい子は好きだった。
お喋りが好きな子と話せば自然と話も弾むし、楽しいし、面白くて愉快だ。
女の子の飛びっきり素敵な笑顔を見るとトキメク。
弥生はドンピシャそういったタイプだった。
このままいけばきっと俺は普通に彼女に惚れ込み、そして気持ちも告げずに(フラれるのが目に見えているんだぜ!)、イイオトモダチでいましょうパターンに流れておしまいだったことだろう。自分でも予想につく展開が今までの俺だった。
だけど今回惚れてしまった子は全然タイプが違った。
おとなしくて、お喋りが好きかといえばそうでもなく、健気で良い子だけど末永くイイオトモダチでいましょうな地味子ちゃん。親近感を抱くだけの女の子だった。
それなのに、俺はいつの間にかこんなにも相手のことを意識している。
そもそもどうして意識をし始めたんだろう。
なんで俺はあの子のことをこんなにも考えるようになったんだっけ?
気持ちが傾く大きな契機なんて一抹もなかった筈なのに。
チームのムードメーカーではないけれど、彼女はいつもチームメートに気配りをする縁の下の力持ちさんだった。
俺はその姿を知っている。
喧嘩後は皆のために飲み物を買いに行ったり、誰かが怪我をした時のためにいつも救急道具を持っていたり、仲間の安否を確認できるよう誰よりも携帯を常備していたり。
俺が日賀野にフルボッコされた時も、率先して手当てをしてくれた。
親近感を抱いているあの子から。そう、親近感を彼女には寄せていた。
ふと、彼女の言の葉が脳裏に過ぎる。
『私、不良じゃないからこそ分かるんです。ケイさんの苦労。不良じゃないと、結構周りからとやかく言われますよね。それでもケイさんは屈することないから……私、ヨウさんにも憧れてますけど、ケイさんにも憧れているんですよ。私、ケイさんのようにもなりたいです』
―――ココロはさり気なく皆の良い所を見てくれている。
俺も例外じゃない。
見ていないようでココロは俺の内面をちゃんと見てくれていた。俺のことを遠くから見守ってくれていた。
彼女をどうして意識したのか。それは小さなちいさな日々の積み重ね、なのかもしれない。
例えば、たむろ場にやって来た彼女と挨拶を交わしたこと。
何気ない会話をしたことと。
優しく手当てをされたこと。
励ましを貰ったこと。
過ごしてきた平凡な日常や時間が積み重ねって、だんだんと惹かれるものになった。
俺は彼女をいつの間にか異性として見ていた。
(惹かれている、か)
目を閉じれば、脳裏に蘇る。
その子の困った顔、驚いた顔、泣いた顔、はにかんだ顔、それに花咲くような笑顔。
なんだよ俺、あんなにもヨウに恋なんてしていないとか、認めていないとか、おざなりの気持ちだとか、弁解していたくせにばっちりと意識をしているじゃんか。
ココロに想い人がいても、こんなにも……だって思っているじゃんかよ。
事実から逃げようとしても、否定しても、自分の気持ちに目を逸らそうとしても、思いの丈は強くなる。
分かっていても想いを告げたくなるのは、なんでだよ。阿呆。
「あーあ、ぜーんぶヨウのせいなんだ。俺、そんなつもりなかったのに。アイツが余計なことを言うから……あっちぃな」
小さなちいさな独り言を漏らす。
幸いなことに、体育館は一際賑わい声で室内を満たしているから、俺の声は誰にも聞こえなかった。
ついでに馬鹿みたいに高鳴っている俺の鼓動も、俺以外の誰にも聞こえていない。きこえていないんだ。
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