じりじりとじれじれ
◇ ◇ ◇
「――ま……やま……た……や……田山! こらっ、起きないか田山!」
ビクッ―!
誰かの喝破が頭上から聞こえて俺の体はものの見事に跳ねた。
嗚呼、誰だよもう……せっかく人が気持ち良く寝ていたっていうのに、耳元でギャンギャンと吠えてくれちゃって……安眠妨害もいいところだっつーの。
その吠えっぷり、モトかタコ沢を思い出すぞ。
今の俺はすっげぇ気だるいんだから、そっとしておいてくれよ。
一度は上体を起こした俺だけど眠気が勝利して、またおやすみなさいモード。
「お……おい田山」
後ろから光喜の声。
シャーペンで背中を突っつかれたけれど無視。周囲の笑声やら囁き声やらが聞こえてきたような気がしたけれどスルー。
わざとらしい咳払いにも目を瞑る。
とにもかくにも眠いんだって。俺の安眠を妨害しないでくれ。昨晩はちっとも寝れていないんだから。
思考がブラックアウトし始める俺を余所に、
「ったく……お前は手間を掛けさせやがってからにもう。苑田! 土倉! お前等も寝るな! 今、授業中だぞ!」
担任の前橋が大喝破していた。
そう、俺、田山圭太は現在進行形で授業中だということを綺麗さっぱり念頭から消して、おやすみなさいモードに入っていたのである。
クラスメートの弥生やハジメと一緒にグースカグースカと寝ているものだから、余計に前橋の怒りを買ったことは言うまでもない。
でもその時の俺は爆睡という二文字で、完全オフモードに入っていたのだった。
「ふぁ〜……シズじゃないけど、起きているこの今瞬間ですら眠いや。ケイも眠たそうだね」
「そりゃ……四時過ぎまで電話したり、メールしていたらなぁ。ねっむっ」
授業後、延々と前橋に説教を食らった俺(と弥生とハジメ)はようやく解放され、かったるい体育の授業を受けている最中だ。
ちなみに授業の内容はバスケ。
連係プレーがすこぶるメンドクサイ球技だ。
幸いなことに、授業の最初の方だからか、男女に分かれ二人組を作ってパス練するのが主。
今日は試合をしないと担当教師が告げていた。
説教のおかげ様で遅れてしまった俺は、ものの見事に余りものグループへと追いやられる。
だけど大丈夫。同類のハジメがいるから!
あいつと組んで形だけ真面目にパス練をしている。形だけな。
遅れた分際でありながら、不真面目に体育館の隅の隅っこで超至近距離パス練している俺達は昨晩について語っていた。
内容は勿論、『エリア戦争』のこと。
俺達がこんなにも寝不足なのは、昨晩チームの打ち合わせがあったからだ。
一旦は今日は此処まで解散! の流れだったんだけど、ちょいと俺達のチームだけで話すことがあったらしく、リーダーが皆に電話やメールを送っていた。俺もそれを手伝ったよ。
超絶眠かったけれどさ、俺だけ寝るわけにもいかないじゃない!
一応舎弟だぜ?
寝落ちしたことがヨウ信者のモトの耳に飛び込みでもしたら……想像するだけでも恐怖だ恐怖!
ヒッ、きっと鼓膜が破れるくらいにぎゃんぎゃん吠えられるんだ。あいつの兄貴愛には恐れ入るもんな。
ヨウは親と喧嘩して二日間、俺のところに泊まっている。
親がいる間は家に帰る場所がないと知った手前、追い返すことなんて俺には到底できない。
両親も泊まりには甘い。
落ち着くまで家に居れば良いとあいつに言ったら、申し訳なさそうに笑みを向けられた。変なところで気を遣う奴だよ。不良のくせに。
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