10-37 「これが俺達の未来で今だ。こうなったからにはとことんやれるところまで……だろ、兄貴?」 したり顔を作る俺に、ヨウは軽くふき出す。 「ははっ、分かっているじゃねえか。ブラザー」 結論、あーだこーだウダウダウダウダ考えても一緒。 だから、今の現実で俺等は精一杯頑張っていこう。 別の未来があったとしても、それは別の俺等が奔走していただろう。 今、俺達が集中しないといけないのは、目前の現実だよ現実。 こっちはこっちで色んな問題ある。頑張っていきまっしょい心でいかないと、なあ? 「『エリア戦争』に勝たないとな。これが俺等にとって巻き返しのチャンスにもなるから」 「ああ。知名度を上げるつもりはねぇけど、向こうをビビらすくれぇのことはしねぇとな。振り返ってみれば……こっちは散々ヤられている。何事も攻めだな攻め。『攻撃は最大の防御』ってヤツだ」 はは、ヨウの口から『攻撃は最大の防御』が出るなんてな。 不良のクセに難しい言葉知っているジャン! 「ケイ。テメェも攻め込んでいかねぇとココロのこと、ゲットできねぇぞ?」 にやっ。 意地の悪い笑みを向けてくるイケメン舎兄に俺は唖然。 直後、盛大に硬直して赤面。 「ななな何言っているんだよ!」 溶け始めているソーダを全部口に押し込んで、俺はシャリシャリごっくん。 まんまアイスを丸呑みした。アイタタタッ、冷たさのあまり頭がっ、ついでに口内と食道が凍死しそうっ! つめたっ! 頭の痛みと冷たさと動揺で身悶えしている俺に、「認めりゃいいのにな」ヨウがおどけ口調で茶化してくる。 ああくそっ、こういう恋愛系話に対して免疫がないんだよな俺。 顔が熱いのなんのってっ、勘弁してくれよ! 反応をすこぶる面白がってくれる性悪の舎兄は、にやにやしながら俺の顔を覗き込んでくる。 「ココロのことが好きなんだろ?」 分かりきった質問にしかめっ面を作ってしまう。 素直じゃない天邪鬼はこう返事した。「嫌いではない」と。 「そうじゃねえだろう」 ヨウは容赦なく俺の偽りを取っ払ってくる。 今は俺しかいねぇと肩を竦め、本音を聞かせろと真っ直ぐ見据えてきた。言えるわけがない。“お前”だからこそ、言えるわけがないんだ。 「意識しているくせに」 なのに、お前がそうやって俺の心を見透かそうとする。厄介な不良だ。 銜えていたアイスの棒の先端を噛み締め、「意識はしているよ」結局、白状せざるを得なくなる。 俺って下手に隠し事はできないタチみたいだ。 「なら」「ヨウ」 告白してしまえと言わんばかりの面持ちを作っている舎兄に淡く笑いを送る。 かぶりを振って、「困らせるだけだよ」自分の抱く感情を根っこから否定した。 「言っただろう? ココロには別に好きな人がいるって」 するとヨウがあきれ返った。 「お前って超絶めんどくせぇ」 悪態をついてくる舎兄の心は見えてこないけれど、物言いたげな顔を浮かべているのは確かだ。 八つ当たりをするように肩を叩き、肘で脇腹を小突いてくる。 「攻めてみろって。振り向くかもしれねぇぞ?」 「ココロの好きな奴と俺じゃあ、勝負が見え見え。絶対に勝てねぇよ」 あっちはイケメンプラス、超仲間想いでチームリーダーだぞ。 ちょい周りが見えなくなるのが短所だけど、イイトコ尽くし。俺じゃあ勝てねぇって絶対に。 心中で毒づく俺に、 「言葉にしてみねぇと分からないこともある」 恋愛の先輩であり、ある意味俺の好敵手であるヨウはそう言ってアドバイスしてくる。 「言葉ってのは大事だと思う。俺と帆奈美は言葉足らずで終わったんだ。あの頃に戻れたら、伝えたい言葉がたくさんある」 「……ヨウ、もしかして帆奈美さんのこと」 [*前へ][次へ#] [戻る] |