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10-30



カッと頭に血がのぼって家を飛び出してきたものの、何処で一夜を明かせばいいやら。

電話が切れてしまった今、アポなしに仲間内のところに行くわけにもいかない。時刻は多分、十時を回っている頃だろう。

大半が泊まりに厳しい家庭。
アポなしで転がり込むのは向こうだって困るだろう。

せめて金があればどっかで時間を潰せるのだが……仕方が無い。金を借りに行こう。ヨウはこの時間に訪問しても比較的に優しい応対をしてくれるであろう、舎弟の家を目指すことにした。

徒歩で二十分程度、家が近くて良かったとつくづく思う。

彼、もしくは自分が電車通だったらそれこそ徒歩一時間は覚悟しなければいけないだろうから。


「ほんと何だかんだで世話になってるよな、舎弟には」


思いつきで作った当初では考えられないほど、自分はあの地味っ子を頼りにしている。支えにしているのだ。


とは言うものの……。


「ンー。挨拶はどうするべきだ。夜遅くにごめんなさい? それとも夜に突然お邪魔します? お暇イタシマシタ……? これ、正しい敬語なのか? あーくそっ、敬語っつーのは苦手だからな」


やはり引け目を感じていたヨウの足取りは重かった。
途中で不良に絡まれたが、それを難なく乗り切り、舎弟宅を目指すために緩やかな坂をのぼって行く。

けれど半分ほどのぼったところで足は止まってしまった。

ヨウは腕を組んでうんぬんと舎弟宅に向ける挨拶を考えていたのだ。
ケイが一人暮らしならまだしも、彼は家族と一緒に暮らしている。

慎重に、丁寧に、そして向こうになるべく悪印象を与えないよう努めなければ。
ケイの家族には良くしてもらっているのだ。悪くは思われたくない。

不良といえど多少の礼儀は心得ているつもりなのだ。身形に関しては胸を張ることができないが、ちゃんと場は弁えている。自分なりに。

普段は使わない頭をフルに働かせていると腹の虫が鳴る。

「腹減った」

夕飯をまだ済ませていないヨウはがっくりと項垂れてしまう。惨めな気持ちになってきた。
どうして自分がこんな目に遭わなければならないのだろうか。

早いところ舎弟に金を借りて、ファミレスなりMックなり一夜過ごせる場所を確保しなければ。


「庸一くん」


ポンッと軽く肩を叩かれる。
弾かれたように顔を上げたヨウが、背後を顧みると柔和に綻ぶ中年のリーマンが立っていた。

ケイの父親だ。
舎弟の面影を感じさせる中年リーマンのこと、ケイの父は「こんばんは」ぺこっと会釈をしてくる。

そのためヨウもつられてぺこりと会釈。
何事もTPOだ、TPO。礼儀正しく、だ。


「こんな時間にイケメンくんに会うなんてラッキーだなぁ。何をしているんだい?」


問い掛けにヨウは困ってしまう。
まさか今から舎弟宅に向かい、金を借りに行く予定でした、なんて言える筈もない。

決まり悪く頭部を掻き返事を考えていると、空気を読まない腹の虫が大きく鳴く。

顔を紅潮させるヨウに何かを感じたのか、

「もう十時過ぎだね」

腕時計で時間を確認したケイの父がヨウの隣に立ち、そっと背中を押す。

「うちに来なさい。圭太なら家にいる筈だから」

「え、いや俺は」

尻込みするヨウに、「大人を頼りなさい」遠慮はいらないとリーマンが目尻を下げる。

言わずも事情を察してくれたのだろう。

寝床に困っているヨウに向かって、ケイの父は歓迎すると笑声を漏らす。
大人は嘘つきばかりで、簡単に信用が置けないと思いがちのヨウだが、この大人の嘘偽りない笑顔には信用が置けた。ケイの父だからこそ信用ができたのかもしれない。

「ただし」

ケイの父がしっかりと釘を刺してくる。

「田山家のルールは父さん中心だよ、庸一くん。つまるところ、主導権は一家の大黒柱である父にある。君も例外じゃない。庸一くんがイケメンであろうと、母さんがその顔にメロメロだろうと田山家のルールは父さんなんだ」

ケイ曰く、父は極度の電波人間らしい……が、間の抜けた顔を作るヨウが表情を崩すのはこの直後。

「おじちゃんのそういうところが好きだな」

客人扱いをせず、家族同然の扱いをしてくる舎弟の父が大好きだとヨウは純粋に思った。



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あきゅろす。
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