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その間、痛いくらい浅倉チームの視線を浴びる羽目になって、息苦しいのなんのって逃げ出したい空気だ。ヒソヒソ声も聞こえてくる。

「あれが荒川か」「噂には聞いてたが」「地味だな」

まあまあ、なんか誤解されているような気がしてならない会話に、俺は顔を引き攣らせる。まさかだと思うけどさ。


「カモフラージュとしては完璧だな。ありゃ敵も欺ける地味ダサくんだ。思わずカツアゲしたくなるもんな。いやぁ策士だな、荒川。で、あいつの舎弟は?」

「噂じゃそこの赤メッシュらしい。美形だな、あいつ。向こうの方がリーダー格に見える。知っているか? 荒川とその舎弟って夜な夜な、二人で族と会っているらしいぜ」

「マジかよ。族ってやばくね? そりゃ日賀野チームと渡り合える筈だよな。噂によると先公をリンチしまくっているそうだな」


「らしいぜ。超キレ者らしいぞ」


俺等の評判、最悪じゃないか。身に覚えのない噂まで立っているし。

族? ンなのに関わったら最後、田山圭太は極道に走るぜ!

……嘘、関わったその瞬間、俺は警察に逃げ込むぜ! 自分と命一番だろ!

しかも思ったとおり、ヤな勘違いをしているしさ。
俺は荒川庸一じゃない、田山圭太だってーの。

カツアゲしたくなるナリ? やかましい! やれるもんならやってみろ!

俺なんて地味っ子にカツアゲしたらな、簡単にできちまうんだからな!

財布はいつも寂しいことになってるから遊びの足しにもならないぜ!

「アリエナイ」

俺の嘆きに、

「リンチはしたことねぇ」

教師を軽くボコしたことはあるけど……ヨウが神妙に呟く。

ものすっげぇ物騒な独り言を耳にした気がするけど、聞き流すことにした。
スルースキルを高めるのも人生において必要だよな。ツッコむだけが人生じゃないよな。


「和彦さんが奥に来て欲しいそうだ。案内する、荒川」


浅倉さんに報告した不良が戻って来た。

先ほどの態度とは打って変わり、案内すると愛想よく笑ってくるのはいいけどさ……何故に俺に言うんだよ。

いや分かっているよ。
誤解してくれているんだろ! アリガタ迷惑な事にさ! 浅倉さんの時と一緒だろ?!

引き攣り笑いを浮かべる俺に、もうダメだと大笑いするワタルさんとシズとハジメ。

俺の不幸を清々しく笑ってくれる。
くそう、俺の不幸を笑ってくれやがって。

きっとヨウも悔しい思いを抱いている筈。

振り返ってヨウに救いを求めれば、

「行きましょうぜ。兄貴」

笑いを堪えながら俺の肩に手を置いてくる調子乗り一匹。

イケメンくんは笑っていても、意地が悪くても、何でもイケていて腹が立つのですが。ぶっ飛ばすぞ、お前! 勿論、出来る筈ないけどさ! ンなことしたらモトに絞め殺される!


「ヨウ! お前、何ふざけてくれちゃってるんだよ!」


怒声を張る俺に、笑声を漏らしながらヨウはキョトン顔を作っている案内役の不良に自分が荒川だと名乗る。
不良の反応はこうである。

「いや、ここでカモフラージュをしなくても。あんた等が策士なのは分かっているけど、此処では普通にしようぜ。俺等、あんた等には友好的に接するつもりだし」

アウチ、デジャヴ。

「いや、だから俺が荒川で」

「お前がリーダーっぽく見えるのになぁ。頭いいんだな。お前のリーダーって」

「こっちが田山」

「まさか、地味くんがリーダーなんて誰も思わないし」

「……またこのパターンか。なんでこんな噂が立っているんだよ。ケイ、なんかしただろ?」 

その言葉、そっくりそのままお前に返す。

舎兄弟の悪い噂が立っているなら、十中八九舎兄に原因があると思いますけどね! 俺より兄貴の方が素行も悪いし……舎弟はいっつもとばっちり受けているんだからな! お前にだけは絶対に言われたくねぇやい!

途方に暮れている俺等を助けてくれたのは、頭脳派くんのハジメだ。

「あの、噂はデマだから。僕等のリーダーはまんま美形不良のこの人。地味な彼はヨウの舎弟。確かに地味だけど僕等のチームメート。彼はこれでもチームの戦力の要になっているんだ」

「ああ、それもカモフラージュとしての説明か」


「……いやだからね」


ハジメの懇切丁寧な説明のおかげで、誤解を乗り越えることができた俺等は不良の案内のもと、浅倉さん達のいるビリヤード室に入る。



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あきゅろす。
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