10-17
さて、と。
どうやって浅倉さんチームのいるビリヤード場に足を踏み入れるか。
やっぱり、ここは三回ノックをして「失礼します」と呼び掛けするのが一番だよな。礼儀だよな。親しき仲にも礼儀あり、不良相手にも礼儀あり、だろう。
どんなに相手が素行の悪い不良さんだとしても、まずはご挨拶するってのが「ワタルがよ〜ばれてじゃじゃじゃじゃ〜ん!」
………礼儀……いずこ?
「みんなお待たせ。アイドルのワタルちゃんが遊びに来たっぽ!」
嗚呼……不良のテリトリーに、ワタルさんってばもう……。
俺は額に手を当てた。
今まさにヨウがドアノブに手を掛けようとした瞬間、ワタルさんが先に役目を取って勢いよく扉を開けた。ウザ口調を付けてな!
おかげで中にいた奴等の白けた眼といったら……しかもやっぱ皆不良さんだし……髪の色がカラフルだし……。
「おいマジかよ。ワタル、何してくれてるんだよ」
「……引かれたな」
「うっわぁ……早速帰りたくなったんだけど。僕」
ヨウやシズ、ハジメも勘弁してくれと顔を顰めている。
嗚呼、三人とも俺と同じ思いなのね。
付き合いの長い不良さんでも、ワタルさんのウザさについていけない時、あるのね。良かった、俺だけじゃなかったんだ。一安心。
「トゥース!」
胸を張って右手の人さし指を挙げて皆様に輝かしいウィンクするワタルさん。
「空気を……読め!」
シズが容赦なく肘鉄砲したのはその直後。
よってワタルさんは静かになったけど、シラッとした空気は拭えずにいる。
ないってこの空気。
初対面に好印象を持たれるには、第一印象が大事だって知らないのか? ワタルさん。
「なんだテメェ等」
近くのビリヤード台に腰掛けていた不良数人が俺達にガン飛ばしてくる。
おわぁあああ、恐い、怖い、KOWAI!
射殺しそうな眼が俺のハートをビビらせているんだぜ!
いつでも何処でも不良と一緒だけど、不良慣れなんて一生できないんだぜ! 帰りたいんだども! 半べそを掻く俺を余所に、リーダーが雄々しく話を切り出す。
「浅倉に話がある。通してもらいてぇんだが」
向こうから舌打ちが聞こえたのはなしてでしょうか?
「あーん? 和彦さんに? ……テメェ等、エリア戦争に関わってる回しもンだろ? だったら容赦しねぇ。おい」
不良達が臨時態勢を取り始める。
話がある=回し者。
それっておかしい図式だと思うのは俺だけじゃないよな。
話があると言っているだけなのに回し者の容疑が掛かっちまうなんてありえないんだけど。
ちょ……不穏な空気が漂ってきたよ。これは訪問早々喧嘩のニオイか。
だったら喧嘩っ早いな、不良って!
警戒心を募らせている複数の不良達のガンを受け止め、
「めんどくせぇ奴等だな」
ヨウが悪態をつく。
それにより、空気が一層悪くなったのだけれど、リーダーは場慣れているらしく、やや声音を張って目的を告げた。
「浅倉に協定の件で返事しに来た。そう伝えろ」
憮然と肩を竦めるヨウに対し、ガンを飛ばしていた不良達の空気が変わる。
警戒心を抱いたまま、俺等の身の上をしっかりと確かめてくる。
「協定? じゃあ、お前等、荒川チームか」
「そうだ。浅倉はいるか?」
「少し待ってろ」
不良の一人がビリヤード台から下りて、颯爽と部屋の奥に向かう。ビリヤード場は二部屋あるみたいだ。
俺達が荒川チームだと分かった瞬間、周囲の不良の皆様方の空気が緩和。不穏は霧散していた。
良かった、どうにか喧嘩にならずに済んだみたいだな。
喧嘩になったらどうしようかと……これもそれもあれもワタルさんがウザ口調でご挨拶するから。
取り敢えず、俺等は向こうの動きがあるまで出入り口で待機。
全員ビリヤード場に入って向こうの返事を待つ。
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