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「アンタって手間の掛かる地味でダサくてどーしょーもない不良だな。年下のオレに世話焼かれちゃ、面子も立たない無いぜ。そんなんでな、そんなんでなヨウさんの舎弟やっていけると思ったら大間違いだぞ! ヨウさんはな、超イケている誰もが敬わなきゃなんねぇ不良なんだからな!」



ガミガミと垂れてくるうざったいモトのお小言を右からに左に流したのは言うまでもない。

まあ、あいつは手厳しい性格をしているけれど、悪い奴じゃない。

何だかんだで舎弟や俺自身のことを認めてくれている。
さり気なく俺のことを“不良”と呼んでくれた。

これは仲間意識の表れだ。
ヨウ崇拝発言プラス、毒吐きはご愛嬌だろ。いつものことだしな。

そんなわけで、モトのお小言と、

「ほんっとすみませーん!」

親友の暴言に謝罪するキヨタ。
その他留守番組諸々の面子の見送りを受けながら、俺はヨウ達と夜が更けていく空の下、こうやって浅倉さん達の住処に足を運ぼうとしているわけだ。

超絶帰りたい。
別の不良チームのテリトリーにたった五人で訪れるなんて、しかも内二人は喧嘩できない組。

ついで言えば、俺は不良ですらねぇ! 足を踏み入れた途端、どんな白けた眼が飛んでくるか。想像するだけで身震いだぜ身震い。密かに背筋に悪寒が。


この感覚はヨウの仲間に紹介される直前の感覚だな。懐かしいなぁ。
できることなら二度と思い出したくない感覚……嗚呼、胃が痛ぇ! 悲鳴あげてらぁ! 帰りたいって泣いてらぁ!


「此処か」


ヨウの言葉に、俺はまたひとつ深い溜息。
階段を上り切った先には、空間と隔離しているような廊下。

そこの最奥に木造の扉がそびえ立っていた。
廊下と遮断している扉の向こうからは喧しい声が聞こえる。

皆、不良の声なんだろうな。泣きたい。永遠に訪れそうにも無い場所の前に俺は立っているのだから。


「僕まで行く必要あった?」


今まさに入ろうとした時、ハジメが物申してくる。

いざという時(いざは俺達の間では“喧嘩”を指す)、足手纏いになるのがオチなんだけど……卑屈交じりに愚痴を零すハジメ。

今なら自分も留守番組に回れるのだけれど、逃避を口にするハジメに、

「だったら俺もそうだって!」

自分だけ安全地帯に逃げようとするなよとツッコミ。

俺だってな、恐いんだぞ! 不良のナリも何もない俺、超KYなんだぞ! それでも果敢に行こうとする俺なんだぞ!

正しくは行かせられようとしている俺なんだぞ!
その俺を差し置いて、喧嘩できない理由でトンズラするつもりなら、俺の方が当て嵌まるって!

今はチャリもないしな! アウチ、喧嘩になったら最初に昇天することは間違いない。


「お前は……チームで一番機転が利く。いてくれないと……困る」


欠伸を噛み締めながら、そうハジメに言うのはシズ。

「脳みそ使わないしな……うちのリーダー」

その分、頭の回転が速いメンバーが必要なのだと意見。
でなければ手を焼くのは自分だとシズは遠目で語る。

「うるせぇな」

最近は努力しているだろうが、舌を鳴らすヨウに対し、まだ不安だと遠目の遠目になるシズ。
言われてやんの、ワタルさんがゲラゲラ腹を抱えて笑う。それにまた舌を鳴らしながら、ヨウは振り返って、ハジメの肩に手を置いた。

「頭を使う分には信用されてねぇ俺だ。欠けている分はテメェが補ってくれ」

代わりに喧嘩は俺に任せとけって。

はにかむヨウに目を瞠るハジメだったけど、小さく表情を崩して「敵わないな」照れ臭そうに言葉を返す。

傍で見ていた俺は自分のことのように嬉しくなった。だってハジメ、自然に笑ってくれているから。


なあ、ハジメ、卑屈にならなくてもいいんだぞ。

お前は自分のことを過小評価する癖があるけど、ハジメが思う以上にヨウ達に、チームに、必要されている存在なんだから。

家庭環境を聞く限り、ハジメは勉強に雁字搦め、勉強一色の窮屈な世界で生きてきたんだろうから、その分頭が良い。

だから余計な事まで気を回して考えちまうんだろ? 考えなくてもいいことまで考えちまうんだろ?

でもハジメが思うほど、小さい存在じゃないよお前って。ヨウ達だってお前が自分を卑下していると、悲しい思いするよ。



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