10-13
「勘弁してくれよ」
ハジメは弥生に追いつくと手首を掴んで、それだけはやめてくれと懇願。知らないとそっぽ向く弥生はフンと鼻を鳴らしてむくれている。
「ハジメが撤回するまでチクりに行くもん」
脹れる弥生に、
「チクられるのだけはほんと勘弁」
ハジメが必死に止めていた。
「ハジメはチームに必要なんだからね。馬鹿! 阿呆! うじ虫!」
「や……弥生。そんな大きな声で……うん、でもありがとう。少し自信を無くしていただけだから」
馬鹿じゃないの、弥生はまた一つ悪態をつく。でも微かに毒気が消えている。
ごめんごめん、ハジメは微笑を零した。そして礼を言っていた。ありがとう、と。
べっつにいいんだけどさ、なーんだ、この蚊帳の外。疎外感。向こうのイイムード。あぁああ、別に妬みじゃないぞ、ないんだぞ。
でも……でも、なんか羨ましいような気がするというかなんというか。そういやハジメと弥生って、よく一緒にいるよな。
もしかしてもしかするとあれか? あれなのか? 友達以上恋人未満の関係を築き上げているのか?
フッ、それはそれで羨ましいぜ。俺は女の子とそんな関係すら築き上げたこともねぇやい! 勿論、男とはアッツーイ友情かましているけどさ! 女のことそういう友情は皆無! 女の子自体縁が無かった俺、残念過ぎる!
……自分で言うのも何だけど、むない。
はぁーあ。溜息をつき力なく金網フェンスに凭れ掛かって、和気藹々と喧嘩もどきのやり取りをしている弥生とハジメを見守る。
弥生はハジメと話している時が、一番生き生きとしているように見える。
なんっつーか、女の子らしい可愛さが全面に出ている気がする。
ハジメに対して口は悪いけど。ハジメも弥生と話す時は、ちょっと優しくなる。甘えてもいいよオーラが出るというかさ。
いいよなぁ、こう……傍から見て両想いになっている奴等って。
(俺にもそうなれる相手がいたらいいけどな。あいつは別の人を見ているし……いやいやいや何を意識しているんだよ!? そ、そりゃ意識はしているけど、一時の感情でしかないんだから。うん、そうだ。なにより好きを認めたら、その時点で俺、失恋だろ。失友に次いで失恋、乙過ぎるだろ! ……あ)
身悶えていた俺は一変、瞠目した。次いで、微苦笑を零す。
おもむろに金網フェンスから移動。
愛チャリをとめている、木材が積まれた場所に歩み寄った。
そこは俺等がいたところからは死角になっている。
距離はそんなにないけど、丁度死角になるから、木材の上に腰掛けていてもそうは気付かない。相手が動かない限り、俺等の目には映らない。
「色々大変だよな。リーダーってのもさ。チームのことを考えなきゃいけないし、協定のことも、敵のことも考えなきゃいけない。俺だったら願い下げだよ、リーダーなんて」
俺は木材の上に腰掛けて一服している舎兄の隣に腰を下ろした。
珍しく煙草をふかしているヨウは、流し目で俺を見た後、苦々しく笑う。
弥生と一緒で、一部始終こっそりと俺達の会話を聞いていたらしい。
聞いちまったのは偶然なんだろうな。
ヨウのことだから、一服しようと此処に腰を掛け……俺等の会話が耳に入ってきて、聞いちまったってところだろう。
「つれぇな。くそ。リーダーやめてぇ」
ヨウは弱音を吐いた。
皆の前じゃ絶対に言わない、小さな弱音だった。
「一緒に背負ってやるって」
俺は舎兄の背中を軽く叩いた。それが舎兄弟ってものだろうし、舎兄弟だけの特権でもあるじゃないか。
俺は舎兄の背中を預かっているんだしな。
ヨウの背負う責任を俺も背負ってやるさ。舎弟として。
「俺以外にも頼もしいメンバーがいる。ハジメだってそうだろ?」
「ああ。喧嘩だけじゃどうにもできねぇ時だってあるしな。あいつは俺よか十二分に洞察力がある――俺個人の意見だが、喧嘩で強弱は決められない。手腕がないばかりの不良が集っている。だから弱小チーム。そんなんじゃ決められないと思っている」
あくまで一個人の意見だけどな。
含みあるヨウの台詞に、俺は一呼吸置いて返答。
「皆、ヨウの出す決断は分かっていると思うよ」
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