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10-11



長い長い思い出話を口にしていたハジメは苦々しく、そして辛そうに笑顔を浮かべる。


「僕は時々思うんだ。此処にいても良いのかって」


間髪容れず、俺はハジメに意見した。


「なんでだよ。喧嘩ができないからか? そんなのちっとも理由にならないって。それだったら俺だって此処にいても良いのか? イケてない地味っ子が不良チームにいても良いのか? そう悶え苦しんでいるって」


ハジメはかぶりを左右に振った。
喧嘩ができないだけじゃない、チームに何もできない自分がいる。それがとても不甲斐ない、と。


「僕は喧嘩のできないメンバーの中でも、何もチームにしてやれていない。グループだった頃からそうだ。ケイには長けた土地勘と自転車の腕。弥生には広範囲な情報網。ココロには皆を気遣える配慮。それによって皆、救われる面が多々ある。

でも僕はどうだろう? グループに迷惑をかけてばかりだ。何もできやしない。なんて言うのか……劣等感ばかりが支配してくるんだ。チームを結成してからその思いの丈は強くなるばかりで。

さっき浅倉が弱小の不良達ばかりが自分のチームにいると言っていたね。あれを聞きながら僕はこう思ったんだ。僕もまた、弱小不良に入るんだろうな。

自分を卑下していた。
僕は僕に自信が無いのかもしれない。

塾に通っていた頃、僕は講師から「勉強のできない奴は落ちこぼれだ」と、よく言い聞かされていたんだけど、その言葉が恐怖になっていたんだ。

まるでお前は社会のゴミだと言われているみたいだから。

小さい頃から熱弁されていたら、当然それは呪詛の言葉にもなるよね。
そして僕は今、不良のおちこぼれなんじゃないかと思わずにはいられない。ヨウも仲間達も、僕にとって大事な居場所だからこそ……ケイ、僕はただ単に喧嘩ができないから悩んでいるんじゃないんだ。
仲間にもチームにも何もできない、自分の存在価値に疑念を抱いているんだ」


一呼吸を置き、語り部は諦めたように目元を和らげた。  




「ケイ、僕はチームを抜けようかと考えているんだ。この頃よく考えている。お荷物と足手纏いにだけはなりたくないから」




ハジメの言葉に俺は瞠目せざるを得ない。

なあハジメ……お前はそんなにも悩んでいたのか? 独りでそんなにも悩んでいたのかよ。チームを抜けようと思い詰めるまで、苦悩していたのかよ。

なら、どうしてそれを誰かに相談しないんだよ。

俺もすぐに皆と一線引くから人のことは言えないけどさ、そんなにも苦しんでいるなら、ヨウ達に相談だってできただろ? お前は俺よりもヨウ達と付き合い長いじゃないか。

呆気に取られていた俺だけど、

「そんな理由じゃリーダーは許してくれないぞ」

顔を顰めて吐き捨てた。


「俺だってさチャリがなかったら、何の取り得もなくなる奴になる。あ、習字が取り得としてあるけど……チャリがなくなったら喧嘩さえもできない地味平凡男だ。ハジメ、お前と同じになるんだ。
だけどヨウにそれを言ってチームを抜けようとしても、あいつは許してくれない。馬鹿言うなって一蹴されるのがオチだ」


ハジメだってそうだ。 

今の理由をヨウに言ったところで、あいつは抜けるなんて許さない。理由にすら取ってくれないって。

寧ろ、「ンなことで悩んでたのか?」そう言って呆れられちまうよ。笑われちまうよ。何で相談しないんだって不貞腐れちまうよ。

どうしてだと思う? ヨウにとってハジメは大切な友達だからだ。

ハジメが不良にやられていると知ったヨウは形振り構わず走り出したっけ。グループやチームに使える使えない以前に、ヨウにとってハジメは友達なんだ。



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