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01-21




自分の情けなさに嫌悪感を抱いていると、御堂先輩が堂々と着替え始める。

繰り返す、断りもなく野郎の前で堂々と着替え始めた。


なんて嬉しいシチュエーションでっしゃろうヒャッホーイ!


……おっと本音がっ、ゴホン。なんてけしからん光景なんだ!

男心をくすぐられる美味しい場面ではあるけれど、まじまじと見守る度胸はない。

先輩には毎度の如く注意しているのにな。


彼女に背を向けて顔を顰める。

「豊福」

浴衣に着替え始めた御堂先輩が帯を締めて欲しいと我が儘を口にしてきた。当然、俺に拒否権はない。


頃合を見計らって彼女の方に振り向くと、膝立ちになって帯を締めてやる。

自分で締めてくださいよ、俺のお小言もなんのその。

王子はご機嫌に鼻歌を歌っている。


けれどその表情も俺の首を見るや否や崩れてしまった。


「……豊福。その首、随分痛そうだね。赤い筋だらけだけど、どうしたの?」


ドスのきいた声にじわりじわりと冷や汗が流れる。


そういえば俺、昼間に鈴理先輩から何度も噛まれていたっけ。

制服なら辛うじて痕を隠せていたのだけれど、生憎露骨に首を曝け出す浴衣は隠すことができない。


つまり歯形が丸見えなのである。

やばい、不穏な空気が漂ってきた。

王子はこの痕が何なのか察している筈だ。


「お、大型犬に襲われまして」


比喩的表現を使い、必死に弁解を口にする。


ふーん、鼻を鳴らす王子の視線が痛い。

大型犬が誰を指しているのか、彼女には絶対に分かっている。


相手を一瞥するとぶうっと王子が頬を膨らませていた。

あ、あれ、予想外の反応。

普段の王子なら鬼畜帯びた笑顔で人を脅しに掛かるのだけれど。

そっと名を呼ぶと、「他校だから仕方ないけど」でもやっぱり嫌だと王子。

日本語としては成立しているけれど、会話としては不成立しているため、俺にはいまいち伝わってこない。


戸惑いながら帯を締め終え腰を上げる。

むくれている御堂先輩に再び声を掛けると、「僕は豊福が好きなんだ」だから僕の知らないところで痕を作られるのは嫌だ、と彼女が脹れる。

所謂嫉妬をしてくれているらしい。

裏を返せば彼女の態度は俺への好意の大きさを示してくれている。

ツーンとそっぽ向くご機嫌ななめの王子に俺は今度こそ困惑してしまう。


御堂先輩がこんな態度を取るなんてまったくの想定外だった。

雄々しい鬼畜王子の一面が当たり前だと思っていたから。


いや、でもやっぱり彼女も女性だしな。

えぇっとこういう時はなんて声を掛ければ。下手に言葉をかけても嘘つきと一蹴されそうだし。

が、頑張れよ俺! こういう時のためのケータイ小説だろう!

なんのために読まされていると思っているんだい!

今こそ胸キュンなアクションを起こすべきだろ!


……とはいえっ、なんと言えば。


無難に『じゃあ先輩。俺を噛んでください(ハート)』かなぁ?

……な、なにが無難にだ馬鹿野郎。
これじゃただのMくんだ。ヤラれてばかりだけど俺はMじゃないっ! そう信じている!


な、なら『貴方で痕を消して下さい』か?

……なんか卑猥!
こんな台詞を吐いた日には俺、ぺろりと食べられちまう!


もっと健全な台詞はないか! 健全で相手を宥められるような言葉……っ。


「俺もファンの子に差し入れを貰っている先輩は嫌です?」


語尾にクエッションをつけてうんっと首を傾げる。

「嫌なの?」

倣って御堂先輩もうんっと首を傾げた。



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