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関係が変わっても、在る心



□ ■ □
 


―――…お互いを理解し、立場を尊重し、それでも尚、褪せない気持ちが此処に在る。


   
「なるほどな。では空、あんたは今までどおりの生活を送っているのか。平日は玲の家で過ごし、休日は実家に帰宅している日々を?」

「そうっす。以前のように過度な稽古事や家庭教師がつけられなくなりましたから、随分生活も楽になりましたよ。とはいえ何か習っていた方が良いと御堂夫妻に言われているので、今、何を習おうか検討中っす。うーん、休日はバイトに励みたいので、なるべく習い事は平日と決めているんっすけど」


「なんだ。まだ喫茶店でバイトを続けるつもりなのか?」

「勿論っすよ。財閥と俺の家庭は別問題ですから。お金を稼いで、少しでも生活費に当てないと……あ、しくった」
 
 
エレガンス学院学食堂にて。

今日も賑わいを見せている学食堂で昼食を済ませた俺は、お馴染みの先輩メンバーと談笑している最中だった。
 

大変な事件に巻き込まれて幾日。
久しく送る学院生活だ。

蘭子さんお手製の弁当を平らげ、せっせと手作業をしながら談笑交じりの近状を報告する俺に、


「財閥の息子候補がバイトねぇ」


あんたも相変わらずの生活を送っているのか、と鈴理先輩。

元カノの彼女と、こうしてシラガミなく会話するのは入院以来だ。
 

未だに俺のことを想ってくれる元カノ。

付き合っていた頃と比較すると、すっかり関係は変わってしまったけれど、俺と彼女の間には今も友情以上の感情が芽生えている。

立場上、口が裂けても本心を零すことはできないけどさ。


彼女の隣を陣取っているのは、鈴理先輩の元婚約者。
悪友と称された彼女の幼馴染だ。

鼻筋が通った端整な面をこちらに向け、大雅先輩が訝しげに俺の手元を観察してくる。



「豊福。てめぇ、さっきから何やってるんだ?」
 


作業の手を止める。

「何って」チラシを折っているんですけど。束になっている紙切れを見せつけ、鼻高々に一笑。
 

「内職をしているんですよ。母さんが短期で配布の内職も始めたと言っていましたから。
ほら、時たま郵便受けにチラシが入っているでしょう? あのチラシを配布する仕事を母さんが始めたんです。

だから俺もチラシを折って、折ったチラシは指定されたエリアに配布する予定っす」


ちゃんと指定エリアの確認もしてきたんですから。

らんらんに目を輝かせ、エリアが記載されているメモ用紙を先輩達に見せ付ける。

ちなみに折り込みチラシは一枚辺り、一円也。


「ということは、一万稼ぐのに一万枚配布するってことかよ!」
 

大雅先輩が頓狂な声を出した。

確かに、単純計算をすればそうなるけれど、配布するチラシは複数ある。

その複数のチラシを指定されたエリアに配布すれば一万件配布せずとも一万円は稼げる。

この内職は三万稼げる計算だから、配布するチラシの種類は三種類あるといえる。
 


「三万でも稼ぎになるなら配布しないと!」



握り拳を作った後、暇なら一緒にチラシを折って欲しいと片手を出す。

実を言うと、まだまだ枚数があるんだ。ひとりで折るには時間が掛かってしまう。
 

あっ気取られている大雅先輩の脇から白い手が伸び、鈴理先輩が協力してくれる姿勢を見せてくれた。

これにより静観していた元カノの友人、宇津木先輩や川島先輩も参戦。


なおざりで大雅先輩も参戦し、全員でチラシ折りの作業開始。

傍目から見たら食堂でチラシ折りなんて異様な光景だろう。
 
 

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あきゅろす。
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