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00-06

 
 
容赦ない御堂先輩の命令に、「駄目です!」声音を張って、この醤油入れは商品なのだと慌てふためく。


目を点にする二人に、

「これは内職の商品なんです!」

捨てられたら困るのだと洗いざらいに白状した。


内職の内容は醤油入れの蓋を閉めるだけ。

一個当たり円以下、銭単位の商品だけれど、お金にはなるのだから捨てられたら非常に困る。


「入院中、あんまりにも暇で……母さんに頼んで内職の商品を分けてもらったんです。寝ているだけなんてつまらないですし、時間も勿体無いですから。これならお金になると思いまして。
ぶっちゃけ意外とハマッちゃって。あと少しで終わるんですよ。昨日も徹夜で……、あ、まずい」


片眉を痙攣させる御堂先輩がわざとらしく吐息をつく。


「徹夜……、なるほどね。君が体調を崩した一番の原因は寝不足にあるのか。徹夜は体調を崩しやすいからね。……っ、豊福! 何をしているんだい! まだ病み上がりなんだぞ! 体を考慮して一緒に寝ることを控えていたら、こんなことをしているなんて」


「ご、ご、ごめんなさい! でも、時は金なりっすよ? 時間は無駄に出来ません。ちょっとでもお金になるなら、頑張りたいじゃないっすか!」

「財閥の子息候補が内職だなんてっ、君って男は」


「俺の家は財閥なんて関係ないっすもん。父さん、母さんが楽になるなら、俺は頑張っちゃいます。これと実家の分を合わせれば、なんと五万も貰えるんっすよ!」


醤油入れの蓋を閉めるだけでお金になるなんて!

嗚呼、内職は魅力ですよね。


目をらんらんに輝かせて語り部に立つ俺は、


「すっかり内職に魅せられちゃって」


新聞の折り込みチラシや内職が載った情報誌を集め出したのだと敷布団の下から取り出した。

あわよくば個人でしてみようと思うのだと得意げに話す。


瞬く間に婚約者から資料を奪われてしまい、悲鳴に近い声を上げてしまった。
 

「内職は元気になるまで禁止だよ。これも没収だ」

「ど、ど、どうしてっすか! 俺、寝ているだけなんて暇でしょうがないんですけど!」

「そうやって体を酷使するから体調を崩すんだ。いいかい、内職は勿論、治るまで勉強も禁止だ。僕が見ていない隙に好き勝手して、まーた体調を崩されたら困るしね」


そんな……、殺生な!

じゃあ本当にただ寝ているだけの日々じゃないっすか!


酷いひどいと喚く俺に、「暇なら」僕が相手をしてあげるよ、意味深長に王子が微笑んでくる。
 

本能が警鐘を鳴らした。

千行の汗を流し、それは遠慮すると後ずさる。

すかさず手首を掴んで逃げ道を塞いでくる彼女に、


「お。おとなしく寝ていますから」


だから御慈悲を。

懇願を込めて許しを乞う。


体が布団に沈んだ。

覆いかぶさってくる王子を見上げ、ひっ、と声なき悲鳴を零す。


こうなったらさと子ちゃんに助けを……、あ゛! あの子、いそいそと耳栓をし始めたよ!

ちょっ、さと子ちゃんっ、助けてって!

SOS、SOS、SOS!
 


「暇だと思うくらい寂しかったんだね。ごめんごめん、僕としたことが」

「アイタタッ、お腹が痛くなってきましたっ! だから俺、寝ます! ホンット寝かしてっ、うわぁああああっ、どっこ触ってるんっすか!」
 


貞操の危機を迎えている俺の傍らでは、急須からお茶を注ぎ、それで一息ついているさと子ちゃんの姿が。



「仲が良きことは美しきことかな、ですかね。お嬢様、頑張ってお心を掴んで下さい」
 
 
 
 

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あきゅろす。
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