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02-18




「婚約者というより下僕ですの。代名詞は犬ではなくって?」



突然すぎて脳の情報処理が追いつかない。

えっと、誰が下僕で、代名詞はなんだって?


「何も答えらえれない間の抜けた顔が、また犬のようですの! そのようなお顔でお姉様の婚約者など片腹痛いですの」


オーケーオーケー。

理解できた。
俺は人権侵害まがいな発言を受けているんだな? 初対面の人間に暴言を吐かれているんだな?!


「まずお姉様を抱きしめているなんて身分知らずも良いところ。貴方なんてお姉様の靴の先でも舐めていれば良いですの。ひれ伏しなさい!」


あっらー?

お姉様ってもしかして王子のこと?
ということはこの子は王子のファン?

先輩、この子はだあれ?


「どこぞの家柄か存じ上げませんが、そのような姿をお生みになった親の顔を拝見したいものですわね」


……おい、その暴言だけは受け取れないぞ。

ファザコンマザコンの俺によくもまあそんな台詞を!

お前、俺が両親至上主義と知って暴言を吐いているのなら、それこそ身の程を知れ!

俺は、俺は、自分のことよりも父さん母さんの暴言を吐かれることの方がブッツンいくんだぞこれ!

公の場ということもあり、怒りを面に出すことはできなかったものの、俺は王子を退けると暴言少女の前に立ち大人気なーく相手に反論した。


「初めましてお嬢さん。俺の名前は豊福空。御堂先輩と婚約している下僕のような犬のような奴です。以降、お見知り置きを。貴方様のお名前は? 初対面に向かってご挨拶もできないとはどのような教育を受けられてきたのでしょうね。見ず知らずの人間に暴言を吐くなど、よっぽどの教育があってこそだと俺は思うのですがぁ?」


「なっ、貴方! なんて無礼講ですの!」

「無礼講なのはどっちでございましょうね? 俺は懇切丁寧に自己紹介をしましたけどぉ? ほほほほ!」


高笑いを真似してふんぞり返る俺に、余裕の笑みが消えたそいつは悔しそうに地団太を踏み、「お姉様!」どうしてこのような奴と婚約されたのですか! ころっと御堂先輩に泣き顔を作ってみせる。

花柄のレースハンカチを噛みしめる彼女に、「美羽(みう)」御堂先輩が肩を落とすように嘆息した。


「彼は僕が見定めた男だ。君の気持ちは嬉しいが、好きな男を貶されると僕としては悲しい」

「お姉様の浮気者! 美羽を抱いて下さると仰ったですの!」


ファッ?!

御堂先輩、いたいけな女の子にそんなことを言ったんっすか!

いや、こいつはいたいけもクソもないけど! でもでも、同性でしょうアータ達!

「夢の中での話だろう?」

動じることなく御堂先輩の指摘。

「夢でもお約束ですの!」

いつかその腕に抱かれることを夢見ているのだと、美羽と呼ばれた少女はぎりぎりとハンカチを噛みしめる。

うん、この子、かなり痛い子のようだ。


「そうでなくとも、お姉様はずっと女の子が好きだと美羽たちを口説いてきたじゃありませんか。なのに、そんな、そんなっ、犬と! 美羽がイギリスに留学している間に何が遭ったですの?! 帰国してきたら、お姉様が婚約しているだなんて! お姉様は男嫌いなのにっ、なのに! ショックのあまり、お姉様に一服盛って抱いてもらおうと思いましたの!」


おぉおおおお嬢さん、それはちょっとあんまりじゃ!


「それはいつものことじゃないか」


いつものこと? え、いつものことって何? 御堂先輩?!

混乱に混乱する俺を余所に、「ごめん美羽」でも僕は譲れないのだと少女に宣言する。


「豊福は僕の婚約者であり、僕の大切な彼女であり、愛すべき男なんだ。美羽も可愛いよ。それはそれは食べちゃいたいくらい。花を舞う蝶のように君は可愛くて綺麗だからね。君のことは大好きだ」


…………その発言が彼女を含むおにゃの子達をその気にさせているに違いない。絶対。


「だけど、僕は異性として豊福が好きなんだ。彼を傷付けられると幾ら可愛い君でも……だから、彼と仲良くしてあげてくれないかな?」


そう王子に言われた途端、



「お姉様が犬に毒されてしまってますのぉおおおお!」



彼女はビィビィと泣き始めた。

泣きながら、こんなのお姉様じゃないと発狂。

別のおにゃの子にお姉様を取られるならまだしも、犬のような下僕のような男にお姉様を取られるなんて!

いつか必ず一服盛って自分の身を抱いてもらい、正気に戻ってもらうのだと叫んでいた。


もはや俺はどこからツッコめばいいやら。

同性うんぬんのツッコミは今更な気がする。


「お、覚えていなさいですの! そこの犬! のうのうとお姉様の隣に立てるのも今のうちなのですから!」

「それはおめでたいことだ。これで空はあたしの所有物として落ち着くというもの」


騒動の輪に入ってきたのは鈴理先輩だ。

「貴方は変わり者の竹之内財閥三女」

グズッと涙ぐんでいる少女に、


「玲はくれてやる。さっさと持っていけ」


そいつは女の尻ばかり追い駆ける王子だ。女と結ばれた方がハッピーエンドだろう。と、言って意地の悪い笑みを浮かべるあたし様に、御堂先輩が片眉をつり上げた。両者の間に青い火花が散っている。

それを見た少女は俺を睨み、再び指さして、「悪女ならぬ悪男!」と罵った。罵りやがりましたよ。


「噂通りの悪男ですの! 女に抱かれたい嗜好があるとは聞いていましたけれど、お姉様だけならず、竹之内財閥三女にまで手を出して!」

「待って待って待って! 前半に全力で異議申し立てするんだけど! だ、だ、だ、誰が女に抱かれたい嗜好があるとっ」


寧ろ手を出されているのは俺ですよ、俺!


「お姉様に抱かれるのはこの丹羽財閥次女の丹羽 美羽(にわ みう)ですの――!」


うわあああん!

そんな泣き声を上げてとんずらする少女、丹羽美羽に俺は驚く。

丹羽といえば五財盟主のひとりじゃないか。
ということは、あの子も御堂先輩と同じ五財盟主財閥ジュニアか?

……嘘だろ。

よりにもよって五財盟主の一人と敵対しちまったよ。

いやでも、初対面で暴言を吐かれたんだ。

俺の対応は正当化されるだろう? まあ、俺も大人げなかったけどさ。

がりがりと頭部を掻き、ため息を零してしまう。


「女に抱かれたい嗜好がある、か……俺の人物像、財閥界じゃ最悪なんじゃ」


鈴理先輩の親衛隊よりメンドクくさそうだな、あの子。

嗚呼、もう一度言っておこう。


ノッケからこれじゃ先が思いやられる!




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あきゅろす。
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