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02-15


いそいそとガラケーを取り出し、メールを確認する鈴理先輩は「おっ」来ている来ていると頬を崩す。

ディスプレイを此方に向ける彼女の携帯には間の抜けた男がシャツ捲りをされている姿が。

一体全体どこでお松さんがカメラを構えていたのか、そんなツッコミを入れる前にっ、このぉおおおお悪魔ぁあああああ!


「すぐに消すっす!」


携帯を奪おうと手を伸ばした。

すかさず鈴理先輩は身をかわし、


「パンチラもばっちりだな」


今日の柄は青地のボクサーか?

なんぞと画像をまじまじ見つめながら感想を述べている。


「空の持つ下着は地味だな。前は黒地のトランクスだったろう? もっと柄物を選んでも良いと思うのだが」

「どぉおおして俺のパンツの柄を知っているんっすか!」


「馬鹿者。このあたしが空のことを知らない筈などないのだ!
ふふん、なにせ中学時代の空を見てきたのだからな! 空の下着の大半は二枚組3セットで500円ものだとあたしは知っている! 安価なものを選び、それを長く使おうと努力していることも!

その中に可愛い柄があることもあたしは知っているぞ。確かカエルちゃんの」


「もうやだこの人! パンツの柄なんて誰にも言ったことがないのにっ! 柄なんてどーでもいいじゃないっすか! 要は穿ければいいんっすから!」


真っ赤っかにして相手の言葉を制すために声音を張ると、足軽に逃げる鈴理先輩を追い駆けた。


「空のパンツもヘソもばっちりだな」「消しなさい!」「キスマークもばっちりだぞ」「けっ、消しなさい!」「だがこれはあたしの付けた痕だろうか」「先輩っ!」「玲の痕ならば癪だな」「止まるっす!」「だがこれはあたしのコレクションだ」「へんたーい!」「褒め言葉だな!」


なんぞ、阿呆なやり取りを勃発。三ツ星洋食屋敷の前で盗撮とパンツネタの鬼ごっこを繰り広げる。


これを止めたのは俺と微妙な関係になっている王子だった。

人の襟首を引っ掴む彼女は、


「極力は僕の傍にいろ」


ぷうっと頬を膨らませると俺の体をズルズルと引きずって入口につま先を向ける。


盗撮された画像を消去したいと物申し、四肢をばたつかせても耳を貸してはくれない。

それどころか、後で生で見せろなんぞと言われ、俺はリアクションに困ってしまう。


本気で人のパンツを見たいのだろうか? この人。




暮れていく茜空の下、俺達は“Rouge ”の入口門をくぐる。

エントランスホールには早速金持ちであろう坊ちゃん嬢ちゃんが受付場に集っていた。


ダークスーツやイブニングドレス、そして名門校の制服。財閥を背負う二世、三世が煌びやかな装飾品をつけて和気藹々と会話している様子が見受けられる。


いつ見てもお友達になれそうにないタイプ達だ。

まず会話が宇宙語だもん。


株の話から、財政から、別荘にベンツ……はい、君達と俺はお友達になれません。ごめんなさいである。


アジくん達を連れてきて正解だったかも。庶民出が多いと心強いもんな。


「すげぇ」


きょろきょろと辺りを見渡すイチゴくん。


金持ちは違うなと大声でアジくん達に話題を振り、竹之内財閥のガードマンさん達に注意されていた。

目立つ行為は控えて欲しいようだ。

うんうん、確かにそれは言えているよ。面倒事はごめんだもんな。


でも、既に俺の王子が、


「キャー! 玲さま!」


目立つ行為をしているのですが、俺はどうすれば良いのでしょう。

鈴理先輩と共に受付台に向かった御堂先輩があっという間にご令嬢たちに囲まれた。もう一度言うけど、ご令嬢たちに囲まれた。


どいつもこいつもハートを宙に散らし、貴方の姿を心待ちにしていましたアピールをしているというね。

お嬢さん方、一応指摘しますけど、俺の王子は女性っすよ! 分かっています?!


女の子に囲まれた御堂先輩は宝塚顔負けの笑顔を作り、王子に夢見る令嬢の頭を一人一人撫でて挨拶を交わしていた。


はは、御堂先輩も相変わらずっすねぇ。

あれじゃあ近付くに近付けねぇよい。


出鼻から俺と王子は離れ離れとなった!



「さすが男装少女。人気がすげぇな。ま、俺様の足元には及ばないが」



わざわざ自分と比較する俺様を横目で見やる。アータの周りには人気がないようっすけど。

ふと俺様の隣にいた宇津木先輩がそわそわと周囲を見渡している。

人を探しているようだ。


もしかして楓さんかな。

彼女に話し掛ける下心ありの野郎どもを綺麗に無視して目をあちらこちらに配っている(そして俺様がそいつ等にガンを飛ばしている!)。

どうやらエントランスホールに足を踏み入れたその時から、交流会の前振りは始まっているようだ。

受付台に向かった鈴理先輩にも多くの財閥ジュニアから声を掛けられていた。

もっぱら男だというところが腹立たしいけれど、彼女も美人さんだもんな。

狙われて当然なんだろうけど……すっごくモヤモヤするという。


へいへいへーい、これは嫉妬? 嫉妬かな? 嫉妬なのかな? バッカじゃねえの俺?!


お、俺には婚約者が……その婚約者もおんにゃのこに……あっれ、俺の立場がないんだけど!


「そーら。いいのか? 早速先輩達が取られたけど?」


意地の悪い笑みを向けてくるのはイチゴくんだった。

男ならあの中を突き進んで取り返せ、とでも言いたいんだろう。


だけど俺には到底できそうにない。

性格もあるけど、身分上のこともある。


特に御堂先輩に関しては男嫌いを忘れることのできる楽しい時間だ。邪魔はしたくない。


気持ちは複雑だけど好きなようにさせるつもりだ……とか、さ、格好はつけてみるけど、やっぱり怖い!

一番怖いのは相手の嫉妬!


無理なものは無理なんだよ!

女子達の嫉視とか浴びたら最後、俺は恐怖のあまりに昇天しちまいそうだもん!


ガタブルに身を震わせてその光景を想像していると、傍らにいた蘭子さんがシクシクシクシク。

お嬢様の女の子好きはどうにかできないでしょうかと嘆いている様子。

そ、それは俺自身もどうしようもないことだ。



さて、受付台からまったく帰って来ない御堂先輩と鈴理先輩。

数分待っていたけれど、一向に話が終わる気配がない。積もる話があるんだろう。


財閥界の事情はよく分からないけど、二人だってその世界で親しい友人がいる筈だ。

まだ会場の準備も整っていないようだし、必然的にエントランスホールで待つことになるだろう。


支障はない筈だよな。


そろそろ待つことに飽きた俺達はその場で駄弁ったり、エントランスホールを見て回ったり、思い思いの行動を起こし始める。

俺は先輩達を待つためにこの場に留まったけれど、ガードマンを買って出た野郎どもは無料で取れる飲み物をついでに颯爽と探索を始めていた。

ははっ、君達、ガードマンはどうしたのよ? 俺のガードそっちのけだろ? べつにいいんだけどさ!


大雅先輩はそわそわしている宇津木先輩のために彼女と楓さんの姿を探しに行ったようだ。

此処に残ったのは俺と蘭子さんとさと子ちゃん、そしてトロくんのみ。


トロくんがどうしてアジくん達と一緒にいないかって、それは言わずもだよな?


「さと子ちゃーん! オレの体にちゅーして痕をつけてもええんやで!」

「ち、近付かないで下さい。本当にっ、お願いします! わ、私は攻め女じゃないんですって!」


嗚呼さと子ちゃんがドン引いている。可哀想に。

さと子ちゃんに貼り付いて離れないトロくんに嘆息しつつ、俺は蘭子さんと交流会について話していた。


今回は前回のように付添い人ではなく、正式な参加者だ。


どのタイミングで財閥ジュニア達と挨拶を交わしたり、好まれる会話をすれば良いか、逆に敬遠される会話は何か、事細かに聞いていた。


大失態は犯したくないもんな。


「気楽にいって下さいね」


知らず知らずのうちに緊張している俺に蘭子さんが微笑む。


こっちの心情は見抜かれているようだ。さすが先輩の教育係。




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