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02-14









本日、御堂淳蔵が用意した財閥交流会の開催場は“Rouge ”と呼ばれる三星の洋食屋敷だという。



洋食店ではなく、洋食屋敷というところがミソだ。


東京の大都会の一角に店ではなく、洋風の屋敷がででーんと建っており、そこでこれまた店をどどーんと経営しているという。


そんな店が存在するのか?

屋敷に店を設けている人間などいるわけない。


ましてやビルビルが密集しているこの地に屋敷など建っているなんて夢のまた夢じゃないか!


実は屋敷という名の一流ホテルでは?

なんぞと疑心を向けてしまうけれど、俺の常識と財閥界の常識は180℃違う。


洋食屋敷は本当にあった。


竹之内家のような洋式の屋敷で、出入り口の厳かな鉄門から金持ち臭が漂っている。

そこをくぐるとシンメトリーの庭兼駐車場が顔を出す。


貫禄ある大きな植木達がぐるっと囲ってある駐車場には木以外にも、先端がカールしているこじゃれた柵や小人の像が置かれていた。


外灯もファンタジーに出てきそうな凝った造りである。


既に駐車場にはリムジンやポルシェなどの高級車が停められていた。

下車する人間は躊躇いもなく屋敷に向かい、交流会の会場へと足を運んでいる。



三階建の屋敷はすべてが洋食店らしく、腕を振るうシェフは世界でも有数の料理人だという。

なるほど、金持ちが好みそうな店だ。



「玲お嬢様、空さま。お待ちしておりました。私の方から、先に席の確認をさせて頂いております」



リムジンから降りると、首を長くしていたさと子ちゃんに出迎えられた。

どうやら駐車場には指定があるようで、彼女は俺達がこの場所に車を停めることを知っていたようだ。

わざわざ後部席のドアを開けて会釈をしてくる。

この日のために着物もいつもよりお高めのものを羽織っていた。


淡い若葉色の生地に霞模様、上品な着物だ。

参加者である俺達は制服だというのに。


恭しく頭を上げたさと子ちゃんの笑顔がぎょっと崩れる。


リムジンから俺達以外の人間が出てきたことにも驚きのようだけれど、一番は。


「そ、空さま。どうなされたのですか? その首の包帯……お怪我でも?」

「ちょ、ちょっとね。大したことないよ」


大袈裟に巻かれた包帯に憂慮を向けてくるさと子ちゃんは、本当に良い子だよ。

救急ポーチなら持っていると言ってくれるさと子ちゃんが天使に見える。まったくもって清く純な天使だ。


すると右隣から「歯形が残っているだけだ」鈴理先輩が、「腹にも痕があるけどね」御堂先輩が意味深長に口角を持ち上げた。


聡い女中はそれ以上、話に触れることなく俺に同情の眼を投げかけてくる。



「さと子ちゃーん!」



と、隣のリムジンから歓喜の声。


顔を引きつらせるさと子ちゃんがまさかと生唾を呑んだ。


うん、そのまさかだ。

二台に分けて乗車した俺達の片方にさと子ちゃんの天敵(という名の受け男)が乗っていたのだから。


スーツ姿に着替えたトロくんがリムジンから降りてくることにより、彼女が悲鳴なき悲鳴を上げた。


急いで人の背中に隠れるものだから、


「なんで豊福なんや!」


そいつも受け男やけど、オレも受け男やんか!


彼はもろ手を挙げてさと子ちゃんに猛進。

よってさと子ちゃんが脱兎のごとく逃げ出す。


着物だというのに高速度! 彼女の逃げ足はピカイチだ!




「早速やってるな。良かった、桧森が来てくれて。じゃねえと俺がどやされるし」


襲い受け男と同じリムジンからイチゴくんが降りてくる。

彼もまた制服から竹之内財閥が用意したスーツにお着替え。


後から下車するアジくんやエビくんも同じ格好をしていた。


本気でガードマンを務めてくれるようだ。


何もそこまでしてもらわなくても良いのだけれど、発案者のアジくんはやる気もやる気。

打倒金持ちだと燃えていた。


決して公の場では口にして欲しくない対抗心だ。


巻き込まれたエビくんは仕方がなさそうに苦笑し、イチゴくんは楽しみだと握り拳を作っている。


彼等の様子を快く思っていないのが御堂先輩だ。

遊びじゃないのだが、と毒のこもった独り言を零し、腕を組んで仁王立ち。


“婚約者の友人を巻き込みたくない”ゆえの態度だろう。彼女は優しいから。



「豊福。いいかい、くれぐれも」



冷然と視線を流してくる王子に、


「はいはい。一人になりませんから」


俺は片耳に指を突っ込んで取り敢えず了解の意を唱える。


「豊福」叱りつけるように口調を強める御堂先輩に、「わーってます!」ちゃあんと王子を含んだ皆と一緒にいると反論。


微妙に彼女のとの口論は継続中だ。

仕方がないじゃないか。御堂先輩が分からんちんなんだから!


いざとなったら俺は御堂先輩に引っ付いて離れないつもりだ。

例え御堂淳蔵が傍にいたとしても。


「安心しろ。玲が不在の間、このあたしが空を可愛く調教しておくから。元々こいつはあ・た・し・も・の、だしな!」


ニンマリニマニマと悪魔が俺の隣に立つや否や、「腹チラわぁお!」カッターシャツをおもむろに掴んで勢いよく捲り上げた。


「ぎゃぁああああああ! ちょ、鈴理先輩!」


急いでシャツを下ろし、何をするのだと猛抗議。

どこ吹く風で「スカート捲りならぬシャツ捲りだ」鈴理先輩はキリッと凛々しい顔を作る。



「女はスカート捲り、男はズボン下げで悪戯を楽しむものだが、あたしは敢えて空の腹を狙う。なにせ空の腹チラヘソチラはそそる以外、なんでもないのだから! 恥じらう空の顔がなにより泣かせたくなる! 鳴かせたくなるとも言う! ……さてと、ばあやに今の瞬間を写メするよう命令していたのだが、画像は届いているだろうか」




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あきゅろす。
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