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02-12



どうしてそこで御堂先輩が真剣に腕を組んで悩んでいるのか、俺にはちっとも分からないんだけど!

おぉお俺を蔵にでも閉じ込めるつもりっすか! あんな塵埃っぽいところに?!


「相変わらず先輩達の愛がっ、重たい」


膝を抱えてエグエグと悲しみの涙を流していると、


「ダーイジョウブ。監禁ならもう慣れっこじゃんかよ!」


イチゴくんがグッジョブと高らかに親指を立てた。胸を張り、キャツはのたまう。


「俺達は既に経験者だ。なんたって一週間、館に閉じ込められたんだからな! いやぁ、まじゲーム三昧だったよな」


それって“霞館”に軟禁されたことを言っているよね?!

ゲーム三昧はイチゴくんだけだったよ!

俺はゲームのゲもしていなかったからね!

遠目を作ってイチゴくんを見上げていると、

「泡風呂は凄かったよな!」

また入りたいとキャツは能天気に指を鳴らす。

「今度監禁される時があったら、また一緒に泡風呂に入ろうぜ! 今度はボトル一本分使って、泡王国を作りてぇ! 金持ちの家だし、それくらいの無駄遣いくらい許されるよな?」

「……時々イチゴくんの底知れぬポジティブ思考が凄く羨ましくなるよ」

「褒めるなって空! 照れるだろ!」

この子はまた監禁されるつもりでいるのだろうか? しかも俺と一緒に。

「俺達もまぜろって」 楽しそうなやり取り(楽しい?)を羨んだアジくんが不満そうにぶうたれると、「んじゃあ皆で監禁されようぜ!」 皆一緒なら怖くないとイチゴくん。なにやら話の主旨がずれているような気がしてならないような。


「ケッ、どいつもこいつも馬鹿かよ。みんなであろうがなんだろうが監禁なんざ犯罪じゃねえか。そらぁちっとは楽しそうだとは思うが、天才な俺様はノってやらんぞ。いや、どーしてもっつーなら仲間に入ってやってもだな」


しれっと仲間の輪に入りたがっている俺様は、ちらちらっと此方に視線を流してきた。

念頭から監禁というワードがすっかり外れているようである。

彼の頭の中ではお泊りパーティーにでも変換されているのだろう。

仕方がないから、大雅先輩もどうですか? と声を掛けると、

「しゃーねぇ。俺様も貴様らの部隊に入ってやらぁ」

自分は何の役だと己を指さした。どうやら俺様もペコポン侵略の仲間入りを果たしたいようだ。男はどいつもこいつもバカでガキである。

余所で鈴里先輩が、「これではヤンデレになれないではないか」二人っきりになって空を監禁してあれやらこれやらする計画が、等とほざいていたような気がするけれど聞かなかったことにしよう。

「大雅さんが空さんを監禁してくれないでしょうか」

それも聞かなかったことにしますからね宇津木先輩!



「玲お嬢様、空さまを交流会に連れて行きましょう」



馬鹿なやり取りをしていると、御堂先輩の乗っていたリムジンから蘭子さんが下車した。その表情はきわめて険しい。 

反対の意を口にしている王子にとって望まない台詞だ。

あからさま憤りを見せている。

しかし、蘭子さんの姿勢は変わらない。

俺の味方をしてくれるのかと思いきや、

「たった今さと子から連絡がありました」

御堂宅に迎えの車が来たと折り畳まれたガラケーを俺達に見せながら一報する。


衝撃が走った。

御堂宅に迎えの車が来た、とはどういうことだろうか?

わざわざ御堂宅に迎えの車を寄越すなんて……源二さんが寄越したとは思えない。


まさか、俺の留守を見越した迎え?

淳蔵さんならありえる。


こちらの考えを先読みして行動を起こすことが得意な人だから。

そうなると実家に迎えの車が寄越されてもおかしくないだろう。

淳蔵さんはあくまで“俺達”を出席させるつもりなんだ。

それとも別の目論見があっての迎え、か。


どちらにせよ俺は留守番すら許されないようだ。婚約者と別行動は逆に危険だ。


「玲」

それまでおどけていた鈴理先輩が整った眉を寄せ、意味深長に声を掛けた。返事はない。

不安に駆られて王子の表情を盗み見る。

殺伐とした空気を醸し出している彼女は、「あの狸ジジイ」舌打ちをすると一点を睨むように目を眇めていた。

腕を組んで口を閉ざしてしまう王子に、蘭子さんが再三再四交流会は共に行動した方が良いことを勧める。

身内と関わらせたくない気持ちは分かるが、向こうの方が一枚も二枚も上手。

ここは素直に相手の準備した舞台に飛び込む方が得策だろう。

教育係の助言に便乗し、宇津木先輩も皆で行動しましょうと助言する。皆で動けば相手の手も伸びにくいのでは? そう促すものの、王子の表情は硬いままだ。

不意に彼女の重たい口が開く。


「本当に人の神経を逆撫ですることが好きなジジイだ。仕方ない、豊福。同行を認めるよ。ただし、」


冷ややかな眼が俺を捉える。

普段ではあまり見られない仄暗い色をした瞳をこちらに向け、王子は俺に命令した。お願いではなく命令を下した。


「単独行動は許さない。必ず僕か鈴理達と共にいるんだ。ジジイの相手を僕がしている時は、鈴理達の傍にいろ」

「なっ、それはできませんよ! 貴方ひとりで淳蔵さまの相手をするつもりですか?!」

「どうせ蘭子が引っ付いてくるだろう。心配は無用だ。とにかく君がいると邪魔なんだ」


じゃ、邪魔。

今、わたすをお邪魔と仰いました?

確かにお荷物になる可能性は限りなく大きいけれども、こうもはっきり言われるとカチンくるものがあるんですが……それは俺だけだろうか?

いつもなら発揮しない負けん気を出して俺は嫌だと却下を申し出る。

自分一人で危険な橋を渡ろうとする王子を知っているのに、見て見ぬ振りなんてできるわけがない。

俺は絶対に引っ付くと相手の気遣いを一蹴する。



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あきゅろす。
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