02-11
「豊福……」
白眼してくる御堂先輩に、
「曹長指名なんっすよ」
だからそういう笑い方をしないといけないのだと必死に言い訳。
そんなことはどうでもいいと一喝してくる御堂先輩は全員自宅待機だとご命令。
声を揃えて不満を漏らすと、「当たり前だ!」これは遊びじゃないんだぞ、と王子が声音を張った。
「ははっ、空に何を言っても無駄だぞ玲。そいつはついて来ると言い始めたら聞かない」
鈴理先輩が大雅先輩と宇津木先輩を連れて正門にやって来た。今日パーティーに行く面子だ。
川島先輩の姿は残念なことに見当たらない。彼女はバイトのようだ。
くつくつと喉を鳴らすように笑う鈴理先輩は、相手を煽るように自分がボディーガードを雇ったのだと教える。
どこかの誰かさんが心配性のようだから自分の判断で高校生ガードマンをつけたのだとあたし様。
口角をつり上げ、「あたしがそいつ等を連れて行く」だから安心してあんたは先に会場へ行け。一々王子に喧嘩を売る。
「空を連れて行きたくないのならば、あたしに託すがいいさ。あたしが空を連れて行く。なあに安心しろ。明日の昼までには返してやるさ。美味しく頂いた後で」
あ、あれ、俺、食べられる前提ですか? 鈴理先輩。
舌なめずりをしてチラ見してくる彼女に千行の汗を流しながら視線を逸らす。
「まったく、今日も可愛くないね。君は。もう少しその高飛車な物の言い方をなおしたらどうだい? そうすれば可愛くなるだろうに」
「可愛くなくて結構なのだよ。あたしはカッコイイ女を目指しているのだから! ……ふむ、玲がどうしても空を留守番させたいのならば、手を貸してやらんでもないぞ」
え゛?!
す、鈴理先輩、それじゃあ話が180度違うじゃないっすか!
血相を変える俺を余所に、「ふーん。君が?」どんな目論見があるんだい? と御堂先輩。
ただでは手を貸さないだろう? 婚約者が問いかけると、
「空を一週間ほど貸して欲しい。やってみたいシチュエーションがあるのだよ!」
鈴理先輩が目を爛々と輝かせた。
いそいそとガラケーを取り出すと、鼻歌を歌いながら機具を起動させる。
「少し前に読んだケータイ小説があるのだが、それがなかなかのシチュエーションで。それを空で試したいのだよ」
出た。悪魔本!
……内容はどんなものなのだろうか。
「君は相変わらずケータイ小説が好きだな。どんなシチュエーションだい?」
「監禁だ」
お、おぉおおお奥さんお聞きしました?! 監禁ですってよ! 世間一般常識じゃ犯罪に当たる行為じゃねぇーでしょうか!
流石の御堂先輩も目を点にしている。顔にでかでかと君は何を言っているんだい? と、書いてある。これが普通の反応だ。うん。
絶句している俺達なんぞ知らん顔で「ヤンデレになってみたいのだよ」あたし様は目を爛々と輝かせて、携帯のディスプレイを此方に見せた。
それを聞いた瞬間、傍にいた大雅先輩がものの見事に硬直(大雅先輩「ヤンデレって前に言っていたあれじゃねえか!」)。
イチゴくんが携帯を覗き込み、『束縛系彼氏〜絶対服従〜』題名を読み上げる。なんとも危ないタイトルだ。
大興奮している鈴理先輩は究極の愛を目指してみたいのだと高らかに片拳をあげた。
「好きな相手を閉じ込め、好き勝手にあれやこれやどれやしてムフフと二人の世界を作り上げる。時に相手や他者を傷付けることもあり、非常に怖い世界だが、見方を変えればそれだけ愛が深いと言えよう。ど、ドキドキするではないか。一室に閉じ込めた空に手錠や首輪をつけるなんて!」
立ち眩みを覚えた俺は、ふらふらっと正門の塀に手を添えてしゃがみ込む。
鈴理先輩……ケータイ小説の毒牙によるシチュエーション厨が前より増している。
手錠ってアータ、首輪ってアータ、監禁って……。
「究極の愛を体験してみたい」
だから空を留守番させたいのならば一週間こいつを貸せ、と鈴理先輩が鼻息を荒くした。
現実問題上、一ヶ月は無理だろうから一週間、せめて三日でもいいから所有物を監禁してみたいとあたし様は満面の笑顔で犯罪めいた発言をかましてくる。
そうしたら自分もパーティーを欠席して、私有化している山荘に篭るとはしゃいだ。
彼女の頭の中の俺は既にぺろっと食べられているんだろうな。
遠目を作って空笑いしていると、「鈴理!」なんてシチュエーションを話してくれるんだい、と御堂先輩が声音をあげた。
「手錠に首輪……そんな美味しい豊福が許されるとでもっ、ちなみにそれは一室なら何処でも閉じ込めていいのかい?」
「ケータイ小説によって様々だな。地下室が王道だが、マンションの寝室や倉庫も有りだと思うぞ。あたしとしては王道に地下室なのだが、さすがに日が当たらない部屋に何時間も閉じ込めておくのは体に毒だと思ってな。ならば日当たりの良い一室に空を閉じ込めようと」
「そうか。我が家には蔵があるから、そこも使えると思ったが……過ごし易いかと言えば、そうでもないしな」
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