再来の財閥交流会(前編)
「――豊福、これは一体どういうことだい?」
前略、今日も不況の波に揉まれながら必死に働いているであろう父さん、母さん。
あなた方の息子はもう幾つ寝たやら、気付けば財閥交流会当日を迎えていました。
再来週の金曜日と源二さんに言われていた日から、もう二週間経ったということです。過ぎ去る時間とは早いものです。
この二週間の間に別段変わったことはありませんでした。
相変わらず、欠席の意を唱える御堂先輩とはぎこちない関係が続き(俺の部屋へ寝には来るのですが)、彼女の命令に首を縦には振れず。
かといって、まさか友人達が計画したことを打ち明けることもできず、内心どうしようと溜息ばかりをついていた日々を過ごしていました。息子はとてもヘタレていました。
言えばきっと大反対を食らうだろうし、けれど友人達はやる気満々なので話を振ることも出来ず、あれよあれよという間に時が過ぎて今に至ります。
源二さんの計らいもあり、取り合えず財閥交流会の会場には向かうことになりました。
それだけでも御堂先輩の機嫌は地を這うように低くなってしまったのですが、追い撃ちをかけるできごとがごにょごにょ。
「今日の計画はアジから全部聞いている。財閥界に乗り込んで庶民の凄さを思い知らせる、題して財閥侵略大作戦を巻き起こすんだろう? パーティーだけでも楽しみなのにっ、やっべぇえ! スパイキッズになった気分だぜ!」
「馬鹿だな、イチゴ。これはガチバトルだぞ。俺達庶民の力を見せる時なんだ。ちなみに俺と笹野のコードネームはホース・マッカルとシュリンプだから。宜しく。な? シュリンプ」
「ま、またシュリンプと名乗る羽目になるなんて。その前にエビと言うあだ名も受け入れたつもりはっ」
「豊福、さと子ちゃんはおらへんの? 花畑がさと子ちゃんがおるゆーたからついて来たんやけど」
正門前で顔なじみ達が和気藹々と好き勝手にお喋りしていた。
クラスメートのフライト兄弟は勿論のこと、他校のイチゴくんやトロくんも集まっている。
一光景に俺を迎えに来てくれたリムジンから降車した御堂先輩の空気が低いのなんのって、相手の顔を直視する勇気は出ない。
禍々しいオーラを放つ御堂先輩の眼から必死に逃れながら、
「パーティー楽しみですね」
空気を和ませようと肩を竦ませて愛想笑い。
皆も楽しみにしているのだと告げれば、王子の空気の温度が10℃ほど下がった。こ、これは不味い!
「皆も楽しみにぃ? 豊福、君はまさか彼等を連れて行こうと思っているんじゃ。君も今日は留守番だぞ」
未だに参加を認めていない御堂先輩が俺の前に回ると、両頬を抓り、「お留守番だ」とご命令。軽く首を横に振ると本気で左右に頬を引っ張られた。
いひゃひゃ! 悲鳴を上げつつも、俺もついて行くと大主張。
御堂先輩が行くんだ。俺だけ行かないのはおかしいじゃんか!
今日も可憐に男装を決めている学ラン少女は駄目の一点張りだけど、俺も譲るわけにはいかない。
顔を振って手から逃れると、アジくん達を指差して弁解を始める。
「彼等は俺のボディーガードを買って出てくれたんっすよ! 多くの目があれば危険も少なくなるでしょう?」
「……豊福、本当に友人がボディーガードになれるとでも? 相手はあのジジイだぞ?」
片眉をつり上げる御堂先輩の問いに言葉が詰まる。
おずおずと友人達を見やると、「ダーイジョウブだって」逸早く話を聞きつけたイチゴくんが足軽に歩んで来た。
満面の笑顔で近付いてくるマイペース男は人の首に腕を回すと、前回もボディーガードもどきをしたから平気だと歯茎を見せて笑った。
自分を親指で指し、きりっと顔を引き締めてこんなことをのたまう。
「御堂。今日の俺達はちっとばかし違う。何故なら、財閥侵略大作戦を起こす庶民代表なんだから! そう、今の俺はペコポンを狙うイチゴ軍曹なんだ!」
まったくもって何が大丈夫なのだろうか。遠目を作る御堂先輩の心情が手に取るように分かる。
そんな彼女に敬礼をするキャツは、「イチゴ軍曹であります!」任務は無事に遂行するであります! とウィンク。他の面子に号令をかけた。
「アジ伍長。エビ二等兵。スカイ曹長。トロロ兵長。財閥侵略、行くであります!」
精神年齢がオトナの高校生なら、くだらないの一言で切り捨てるであろう場面。
だがしかーし、男子は大概で馬鹿なので俺を含んだ全員が敬礼。
「アジ伍長、準備OKだぜ」「エビ二等兵もバッチシですぅ」「トロロ兵長も同じくでござる」
気合の入った返事に、溜息交じりの返事、ノリノリの返事など各々が答える中、御堂先輩が呆れ顔で俺を一瞥。
まさか君までしているわけでは、と眼を向けられたのだけれど残念! 俺もついつい、クーックックックックッと笑っていたという。
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