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02-09




「と、いうことなんですよ。御堂先輩の説得にはガードマンがいるんですが、より信頼を得るためにホースマッカルとシュリンプが担当しようと思いまして。竹之内先輩のところのガードマンにもう一度志願させて下さい。俺達がガードマンをすればきっと向こうも納得すると思うんですよ!」


「ふむ、楽しそうだから許そう。森崎達にはあたしから伝えておく」



美術の授業終わり。

直で2年F組の教室に走ったアジくんは事細かに事情を話すや、竹之内財閥のガードマンに志願した。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

血相を変えて止める俺を他所に、


「財閥交流会。待ってろ!」


庶民の底力を見せてやる! とアジくん。

何故か対抗心を燃やしていた。

その隣で「やっぱり」エビくんが頭上に雨雲を作っている。


これで万事丸く収まるな、アジくんが親指を立てたけれど、まったくもってグッジョブじゃない!


「ざ、財閥交流会について行くつもりなの?!」

「おうよ。お前だって前回ついて行っただろう? 文句を言われる筋合いはないぞ。俺は考えたんだ。御堂先輩は自分の見ていないところで、空が誰かに何かを吹き込まれるんじゃないか。また拉致されるんじゃないか、と。なら監視の目を増やして止める人間を増やせばいいんだ!」

「そ、そういう問題じゃ。鈴理先輩もっ、許可しないで下さいよ!」


腰に手を当てて話を聴いているあたし様に泣きつくと、


「面白そうではないか」


財閥交流会自体は楽しくない。

こういうパーティーは親しい人間と行くと面白いのだと鈴理先輩。斜め上の返答をされた。


でも、主催しているのは御堂淳蔵だ。二人に何か遭ったら……!


「空、今のお前の反応は御堂先輩と同じだぞ。説得したいなら、俺の優しい案を受け入れろって。いいじゃん、お前について行くんじゃなくて竹之内先輩に誘われたという理由にしておけば。俺達を信用しろって」


アジくんが好い笑顔で胸部を拳で叩く。

その笑顔が余計に不安を誘われるのだけれど。

「そうだ!」

アジくんがおもむろにガラケーを取り出す。

教師がいないことを確認して手早くボタンを押してメールを送信。

数十秒も経たずに着信が来たため、颯爽と電話に出る。


「もしもし。おう、メール読んだか? 再来週の金曜だって。ん、空いている? そっかそっか。お前が来てくれたらむっちゃ心強いよ」


アジくんっ、まさかその電話の相手は!

急いで彼の手から携帯を奪い、「もしもし!」相手を確認する。

受話器の向こうから、『楽しそうだな空!』俺、パーティーなんて初めてだと大はしゃぎする声が。

嗚呼、この声はゴーイングマイウェイイチゴではないですか。

予想はついていたけれど、やっぱり君だったのね。


「い、イチゴくん。あの、パーティーなんだけどさ」

『分かってるって! 制服かスーツだろ? まーじ楽しみなんだけど!」


ちーっとも分かっていないよ君! 俺の話をまず聞いてくれない?!


『そうだ、桧森も来るんだろ? トロも呼んでおくな』

「え゛? あの、遊びに行くんじゃ」

『あ、担任が来る。じゃあ、また連絡するな。楽しみにしているから!』

「あ、イチゴくっ……き、切れちまった」


嘘だろ、イチゴくんとトロくんも来るの? 財閥交流会に。

途方に暮れる俺は大変な事態になってしまったと千行の汗を流す。

フライト兄弟だけでなく、イチゴくんやトロくんが来てしまったら、別の意味で俺の危機だ。

こんな濃い面子をパーティーに連れて行ってみろよ。大騒動になりかねない! 御堂先輩にも叱られるじゃんかよ!


「鈴理先輩」


どうしてくれるのだとあたし様に文句を垂れる。

八つ当たりなのは分かっているけれど、当たらずにはいられない。

するとあたし様はクイっと口角を吊り上げ、人の腰に腕を回すと距離を詰めてきた。

離れようと足を伸ばすけど、その足はあたし様の足によって阻まれる。


「人の目が多ければ、玲も好き勝手はできないだろう。ふ、隙は虎視眈々と狙うのだよ」

「……鈴理先輩。もしかして下心を持っています?」

「さあな。ただ言えることは、玲は今、臆病風に吹かれてしまっている。気持ちは分からんでもないが、空の性格を考慮すると留守番をさせる、では駄目なのだ。空の性格を考慮するとな。あんたは守られる、というより誰かと運命を共同したい男なのだよ」


俺のすべてを分かっているかのように鈴理先輩が得意げな微笑みを浮かべる。

呆けていると、「さてと」四限目は休むか。周囲をぐるっと見渡し、よいしょの掛け声と共に人の体を肩に乗せた。


行き先は保健室だと鼻歌を歌うあたし様の下心に悲鳴を上げ、「俺は教室に戻りますから!」四肢をばたつかせて下ろすよう頼み込む。

フライト兄弟はいつものことだと見事にシカトくれているから、誰も助けれてくれないという。


「あんたはあたしのものだ」


どうしようと勝手だろう? 空はあたしのことを嫌えるわけがないもんな。

ニヤッと嫌みったらしく笑う彼女と目が合い、不覚にも頬が熱くなった。

も、この馬鹿たれ。

婚約者がいることを忘れるなって俺。


そして先輩は意地悪だ。俺の気持ちを知っているくせに。


暴れても相手の力に負けてしまうため、隙を窺って逃げる策に出ることにする。

その間、ゆらりゆらりと揺られながら鈴理先輩に拉致される俺は生徒達の視線を浴びながら、深い溜息をつく。


「鈴理先輩。財閥交流会には出席するんっすか?」

「勿論だ。空がいるのならば、あたしは喜んで行く。玲と勝負がついていないのだ。今回は前回のようにこそこそせず、派手にいくぞ。楽しみだな、財閥交流会」


俺はちっともっすよ。寧ろ不安な要素が増えてなんともかんとも。

取り合えず、一つだけ言える。

事が知られたら御堂先輩に一喝を食らうに違いない。間違いなく。



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