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00-05



半泣きのまま布団に潜り込もうとすると、「空さま!」さと子ちゃんが侵入してきた。
 
間の抜けた声を出して驚く俺に、「私はお二人の味方ですから」お二人を応援するのだと綻んでくる。


彼女は俺の想い人が誰なのか知っている。

三角関係を知った前提で、俺と御堂先輩を応援してくれているんだ。

本音を言えば俺と御堂先輩の仲を応援したいところなのだろうけれど、さと子ちゃんは優しい。

だから個々人を応援してくれている。一友人として。
 

「できれば空さまとお嬢様が結ばれてくれるのが一番なんですけどね」


ぺろっと舌を出すさと子ちゃんに微苦笑を零す。
 
と、その時、障子が無遠慮に開かれた。

ゼリーを取りに行った御堂先輩が戻ってきたようだ。


王子は部屋に入るなり、足を止めて眉を寄せてくる。


「何をしているんだい?」


揃って布団に入って。

交互に指差してくる王子に、俺達は顔を見合わせる。


「何って」「それは勿論」簡単な会話を交わし、いそいそと布団に潜水。


「こら、二人とも」


訝しげな顔をしているであろう王子が歩んでくる。

毛布を引き剥がす頃合を狙い、二人で捨て身ののしかかり。


「うわっ!」


驚きの声を上げる御堂先輩を下敷きにして笑声をあげた。

悪戯に成功する俺達に呆気取られていた王子も仕方が無さそうに笑い、「まったく。この状況は」両手に花じゃないか、と俺とさと子ちゃんの頭に手を置く。

瞬間、抱き締められた。
二人でギブギブと白旗を振ると、今度こそ彼女はあどけなく破顔する。


その表情に安堵感を覚えた。


御堂先輩はそれでいいんだ。今の表情を作る先輩が一番いい。

もし感情に暴走することがあれば、俺達が全力でとめる。


だから、ずっとそうやって笑っていて欲しい。

そう願うことは贅沢だろうか?


よっこらせ。

親父くさい掛け声と共に布団の上に座り込み、「しんどいや」暴れすぎたと苦笑いを零す。

くしゃみを一つすると、「本当に不調だね」風邪の引き始めみたいだし、御堂先輩が憂慮を見せた。

「毛布を増やしましょう」

あったかくして寝ていれば治りますよ、さと子ちゃんが襖に向かう。
 

あ、やべ、あの襖の向こうには!


「さ、さと子ちゃん。自分で取るからいいよ!」


「え?」時既に遅し。さと子ちゃんが襖を開けてしまった。

中から顔を出したのは、お魚さんの形をしたお醤油入れ。

ほら、よく弁当とかについているあれだ。


あのお醤油入れが半透明のビニール袋に大量に詰め込まれている。

上下段に渡って仕舞われている沢山のお醤油入れにさと子ちゃんと御堂先輩が硬直した。


まずい。これは非常にまずい。

指遊びをして、この場をどう乗り切ろうか考える。

けれど二人は時間すら与えてくれない。


「あれは!」「何ですか!」


ずいっと詰め寄られてしまい、えへへ、俺は誤魔化し笑いで凌いだ。


「あれは、お醤油入れ……です」

「それは分かっていますよ! なんですかっ、あの量?! いつの間に仕舞われていたのですか!」
 
「え、えっと。入院していた時に、母さんから分けてもらって、こっそり」
 
「こんなに沢山っ、何のために使うんだい?! コレクションするにも程があるだろう。捨てろ、今すぐに」
 
 

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