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02-04



「今回の財閥交流会の主催者は御堂淳蔵、私の父なんだ」


遠慮がちに真実を告げる源二さん、一方で御堂先輩の取り巻く空気が変わった。

「ジジイが主催をっ?」

殺気立つ王子の反応に眉を下げ、語り部は小さく頷いた。

なんでも今回の交流会は俺達の“婚約パーティーの延期”に対する詫びを兼ねたもので、源二さんの知らないところで交流会の準備が行われていたらしい。

“婚約パーティーの延期”に対するお詫びとなれば、いくら実父と対峙している源二さんでも参加せざるを得ない。

それは婚約当事者である俺達にも同じことが言える。


あの時の婚約パーティーには名のある財閥達が集っていた。

口悪く言えば参列してくれた人達に無駄足を踏ませてしまったのだから、それなりの詫びは建前でもしておかなければ失礼だ。

財閥界ではより資産のある家柄の繋がりが重視されている。

実父と対峙した以上、源二さんとしても多くの人達と友好を結んでおきたいところだろう。

故に今回の財閥交流会は外せないのだと告げる。


「父と対峙しても同じ御堂家だ」


己の父が“婚約パーティーの延期”を理由に交流会を催すのならば、参加しないわけにはいかない。源二さんが深いため息を零す。


「なにより、父から要求があったんだ。玲、そして空くんに出席させるように、と」


御堂先輩が片拳で畳を叩く。

「僕は反対です!」

祖父の要求には裏があるに違いない。

何かあるに決まっている。

自分は純血の御堂家だから諦めはつくが、婚約者は違う。


参加なんて不要だ。

声音を張り、俺の参加を拒絶した。


どうしても参加をして欲しくないらしく、実家に帰ることを理由に挙げれば良いではないかと提案する。


しかし、どう足掻いても俺は御堂先輩の婚約者。

遅かれ早かれ財閥交流会への参加はしなければならないだろう。

一度、欠席するとどんな噂を流されるか。

財閥界の内情を知っている源二さんが分かって欲しいと説得を始めるものの、「嫌です」かぶりを振り、王子が体ごとそっぽを向く。


「玲」


源二さんが声を掛けても嫌だの一点張り。子供のように駄々をこねた。

俺は目を細め、彼女からそっと視線を外す。

御堂先輩は淳蔵さんに恋心を利用され、俺は親戚を理由に借金を負い利用された。

結果的に傷付く結果となった俺達。


それでも俺は俺を守ってくれた王子を選び、今日(こんにち)まで婚約者として肩を並べている。

今も俺を守ってくれようとする御堂先輩の気持ちは嬉しい。


だけど彼女の気持ちと同じように俺も王子を守りたい。

そのために誰かさんの気持ちを差し置いて隣に立っているのだから。


「御堂先輩、俺も出席します」


「豊福」君は黙っていろと睨みを飛ばしてくる王子と眼を合わせ、「主催者はあの淳蔵さまです」きっと俺が欠席すれば、此方に不利な行動を起こしてくる筈。聡い淳蔵さんのことだ。

御堂先輩が反対する気持ちすら計算に入れ、その場合の対策も練っていることだろう。

出席するにせよ、欠席するにせよ、同じ不利な対策が打たれるというのならば行動を起こした方が良策だ。


例え淳蔵さんの策に嵌ろうとも、今は素直に指示に従った方が良い。

“婚約パーティーの延期”を理由に掲げるなら、尚更俺達の参加は不可欠だ。


相手に物申すと、口を閉ざした御堂先輩が腰を上げた。

現状は理解できても淳蔵さんの言いなりになることが気に食わなかったようで、これ以上聞きたくないとばかりに早足で部屋を出て行こうとする。

そんな王子の背に、「貴方の傍にいたいんですよ」今の気持ちをぶつける。


すると一度だけ立ち止まった彼女が俺を流し目にし、能面のまま告げた。


「ジジイの相手は僕だけで十分だ」


殺意を含んだ眼は障子が閉められると共に姿を消す。




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あきゅろす。
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