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02-02



「な、なっ、なっ?!」


目を白黒させて首を捻ろうとすると、

「油断大敵だよ」

僕が何もしないわけないじゃないか、言うや形のよい唇が右の耳たぶを食んだ。

座って数分も立たないうちに食みやがりましたよ!


「この体勢の美味しいところだよね」


特に君は耳が弱いから、なんぞと言う王子に千行の汗が流れる。 


「お、お、落ち着いてください。俺、明日の家庭教師のフランス語をまだ全部終えてなぁあああぎゃあああエッチィイイ!」


手っ、先輩の手が浴衣の袂を開いて割り込んできたんだけど!


「相手に背を向けて腕におさまるということは、何をされても文句は無いという合図なんだよ。知ってた?」

「知るわけないっす! 勝手に作らないで下さいっ、あと袂に手を入れないで! せ、セクハラ反対! うひっ、耳は駄目駄目駄目! 反則っす!」


可愛くない悲鳴を上げて逃げようとする俺の身を押さえ込み、「じゃあ一つだけやめてあげる」この体勢か、セクハラか、耳か、どれがいい? と御堂先輩。


どれもやめて欲しいのが本音。

だけど一番はやっぱり耳だ。

こいつだけは本当にどうしようもないくらい弱い!

即行で耳だと返事する。が、これは罠だと阿呆な豊福は今更ながら気付いた。

口角を持ち上げる御堂先輩を直視して青褪める俺に対し、「僕は優しいから」二つはやめてあげると王子。


その代わり、残った一つは存分に愉しませてもらうと告げ、思い切り耳殻を食んできた。


ほらやっぱりそうくると思ったよ!

王子なら人の一番嫌がることをしたがると思ったよ!


あぁあああ耳は本当にっ、特に右耳は勘弁っ!


上体を起こして逃げようにも御堂先輩の腕の強さと、自身の配慮が仇になり、起き上がることが困難となる。

攻め女の要求に答えるために腕におさまろうとした俺の優しさを仇で返すだなんて!

しかも忌まわしいこの体勢もセクハラもやめてくれないという……選択肢の意味はなに?!

俺をいじめるのもいい加減にしなさい!


うわぁあああっ、思ったそばから耳に吐息がっ、過剰反応を起こした自分が嫌になるんだども!


「可愛い」


人の反応を心の底から楽しむ彼女の手から何とか逃げようと躍起になると、かちりと音無き音が聞こえたような気がした。


やっべ。

まさか、婚約者の本気鬼畜スイッチが入ったのでは?

生唾を呑んで後ろをチラ見すると、


「君の抵抗は本当に可愛い」


だからこそ自分から求めさせたくなる、満面の笑みを浮かべた麗しき王子様がひとり。

袂から手を引っこ抜くと、糸も容易く人の体を片手で横抱きにした。

お、おかしいな、俺の体重は平均並みだというのに!


俺の右手を取って手の甲に唇を寄せる彼女がニコッと微笑んだ。


「姫、今宵は僕と踊り明かしましょう」


純粋に踊り明かす、という意味ではないことくらい俺には分かっている。

踊るとはあれの比喩表現ですよね。間違ってもオールナイトでロックソーラン節を踊るわけじゃないっすよね?!

ぶんぶんとかぶりを左右に振ると、


「王子。わたくしは婿入り前の体ゆえ」


そういうことはお控え願いたいのです、場の空気を読みつつ畏まって懇願。

雰囲気を崩せば最後、俺の身はあれよあれよと食われるに違いない。

崩さなくとも食われる危険には晒されているのだけれど。


「大丈夫」


すべての責任は取るから、目を細めて口元を緩ませる御堂先輩。

責任を取らないといけないのは男ですよ! だってッアーなことをしたら子供がっ、あ、ちょっ!


強引に体を引き寄せられ、今まさに唇が触れ合おうとした、その時である。


「玲。空くん。ちょっといいかな?」


障子が開いた、前触れもなく開いてしまわれた。

第三者のご登場はお馴染みのパターンである。

だがしかし、訪れた相手が悪かった。

何故なら訪問者は現在進行形で義理の父になる源二さんだったのだから。


赤面石化する俺を他所に「おや?」障子向こうの光景に源二さんが声を上げ、まんまるに目を丸くした。

ついで、これは失礼したと笑声を漏らし、いそいそと障子を閉めてしまう。


「玲が空くんに手を出している最中とは知らず、後で来るとしよう」


いらない気遣い!

確かに娘さんから手は出されていましたけど!


「うあぁあああ源二さんっ、ちょ、待って下さい! 先輩も早く退いてくださいよぉおお!」

「えー。いいじゃないか、父は後で来ると言ったんだし」


「おばか! そんな問題じゃないっす! げ、源二さんっ、戻って来て下さいぃいいい!」




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あきゅろす。
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