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01-29




「あ、先輩方。そろそろ閉店時間っす。片付けをしたいんですが」

「君を待っていたんだ。アップしたら、少しだけ五人で駄弁らないかい? さと子も鈴理や大雅と仲良くなれたんだ」


どうやら俺が仕事に勤しんでいる間にさと子ちゃんは財閥組と仲良くなれたようだ。

きっと御堂先輩や鈴理先輩の配慮があってだろう。

基本的に攻め女達は好敵手ながらも親友という関係を築いているから、さと子ちゃんの困り果てている姿を見れば放ってはおけず、好敵手ならではの態度を控えてくれる。そこはオトナの対応をしてくれる人達だ。

しかも何だかんだで財閥組は仲が良いため、御堂先輩がすすんでさと子ちゃんを二人に紹介したんじゃないかな。

一時はどうなることかと思ったけれど、それなりに打ち解けているなら良かった。

夢を抱いて上京してきた彼女には、此処で楽しい思い出を沢山作って欲しいもんな。


「あら、豊福くんのお友達さまなの?」

「え、あ、伊草店長。すみません、すぐに仕事に戻りますんで」


閉店時間の旨を伝えるだけの筈が、他愛も無い会話を交わしてしまった。

声を掛けてきた伊草店長に謝罪すると、「いいのよ」朗らかな笑みを浮かべ、もう一杯お茶はいかが? と先輩達に勧めた。

俺のアップを待つなら此処で待てばいい。お茶くらいなら奢れるから、と伊草店長。

遠慮を見せる先輩達にいいからいいからと笑い、「この際だから私のお勧めでも淹れてあげましょうかね」と言って厨房に入って行く。


「あ、ありがとうございます店長。俺も手伝います!」


急いで店長の後を追うと、「食器を片付けてもらえるかしら?」お茶は自分ひとりで淹れられるから、と伊草店長が指示。

素直に頷き、再三再四礼を告げると俺はシンクに立って残りの食器を洗おうと蛇口を捻った。


このおばちゃん店長は本当に優しい。

個人経営だから閉店時間を延長も短縮もできるし、サービスも自由にできるのだと言って店員の俺達によく気配りをしてくれる。

今だって俺の友人と知るやお茶を淹れてくれるし、厨房で一緒に働いていた主婦店員には家事があるだろうと早めに帰宅させている。

落ち込んでいたら声を掛けて親身に相談に乗ってくれるし、私生活に支障が出たらなるべく俺達を優先してくれる。


だからアルバイトである俺達も心の底から伊草店長を慕っているし、彼女が人手不足で困っているならすすんでシフトに入ろうと思える。


「あの方々は豊福くんの先輩さんなのね。皆様、人の良さそうな方々で」


店長がのんびりとした口調で話題を振ってくる。

けれどその口ぶりとは反対に、お茶を淹れる手際は綺麗且つはやい。流石だ、手馴れている。


「はい。ひとり同級生がいるんですけど、後はみんな俺の先輩で可愛がってもらっているんです」


すると俺のすぐ側で食器を拭いていた大学アルバイト生の鈴木さんが話の輪に入ってくる。


「わりとよく見るもんね。あのお客さん達。そっか豊福くんの先輩なんだ。特に学ランの子は常連だけど……僕はっ、いつも睨まれっ、嫌われるようなことでもしたかな」

「あぁあああ、すみません。彼女も悪気があるわけじゃないんです。ただちょっと男嫌いで。親しくない男には素っ気無いんっすよ」


お客が俺の先輩とあって俺達も厨房で和気藹々と会話を弾ませることができる。

俺と鈴木さんが厨房で食器を片付けている間に、店長がお茶を持って五番席にいる先輩方の下へ。

店長お勧めの熱々の玄米茶は好評だったようで、フロアからはお礼と美味しいの言葉が聞こえた。


うんうん、そうだろ。


伊草店長のお勧めは本当に美味いんだ。

なんたってあの人の舌はお茶に対して凄く厳しい。


その分、厳選されたお茶を提供しているのだから、そらぁ美味しいだろう。


早く仕事を終えてアップしよう。そう思いながら鈴木さんと会話しつつ、食器を洗っていると突然扉の方から忙しい呼び鈴が鳴った。

お客さんが来たのかな? もう閉店五分前だけど。


それにしてはやけに乱暴な扉の開け方だ。

カウンターに顔を出し、フロアの様子を確かめる。




「て、ててててて店長! 伊草店長ぉおお!」




発狂したような金切り声を上げて店内に飛び込んできたのは高校アルバイト生の中井くんだった。

文字通り、血相を変えて店長に駆け寄って来る中井くんの姿には俺や店長は勿論、その場にいた先輩達もびっくり仰天。


「ど、どうしたの?」


今日はオフ日でしょう?

動揺している中井くんを宥めるように店長が声を掛けると、

「し、シフト。その、あの」

気が動転している中井くんが意味不明な単語を述べてあたふたあたふた。

落ち着くよう店長が促すと、ようやく中井くんが一呼吸置き、矢継ぎ早に話し始めた。


「て、店長っ、警察に連絡して下さいっ! あ、あ、あいつは危険ですよ!」

「あいつ? 中井くん、誰のことを」


「先週の土曜に来店した変人の客です! ほら、とよみんに詰め寄ったあの優男! あ、あぁあああれはとよみんのストーカーに違いなっ、あぁああああとよみぃいいんん! 君、無事だったかい?! あの日お持ち帰りされちまってっ、メールしたけど返事もなくってっ、ぼくは心配していたんだからな!」


俺の姿を見かけるや否や、中井くんが駆け寄りカウンター越しに憂慮を向けてくる。

あ、やべ、確かに中井くんからメールを貰っていたような……でも土日は楓さんのせいで疲労困憊しちまって、メールは見たもののそのまま放置しちゃったんだよな。返事のことを忘れていたよ。

てか、中井くんが言っている男ってもしかしなくとも。




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あきゅろす。
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