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01-24



でも、本当に可愛いと思った。

短髪にも関わらずスカーフヘアバンドはよく映えている。

端正な顔立ちをしている王子にすごく似合っている。

似合わないだろうと気まずそうに頬を掻いている御堂先輩に、「可愛いですよ」贈って良かったと綻ぶ。

珍しく先輩の耳が赤く染まった。


変に表情を崩したくないのか一の字に口を結んでいた彼女だけど、俺と視線が合うとハニカミを見せる。 


「ありがとう」


お礼の言葉と行動、どちらが早かっただろう?

とても嬉しいと頭を抱きしめてくる王子の腕の強さに驚き、抱擁してくるその行動にも頓狂な声を上げ、ご両親がいますからと俺は大いに焦る。

けれど俺の主張なんて聞く耳も持っていないようだ。

本当に嬉しいと肩口に額を乗せてぐりぐりと押し付けて甘えてくる。

喜びの丈がじかに伝わってきた。夫妻の目を気にしつつ、「舞台頑張ってくださいね」絶対に観に行くからと約束を結んで抱擁を返した。


首肯する王子は今日一番の笑顔を見せてくれる。

スカーフヘアバンドを触りながら大切にすると何度も俺に言い、夕食中ずっと子供のように無邪気にはしゃいでいた。




贈り物は大層お気に召してくれたようで、寝る前まで王子はスカーフヘアバンドをつけてくれている。

性格上ブレスレットとして使用するだろうと踏んでいたのだけれど、今のところずっとヘアバンドとして身につけていた。

流石に入浴の際は外したみたいだけど、それ以外は身につけていて、蘭子さんやさと子ちゃんその他女中さんにここぞと自慢している。


嬉しいやら恥ずかしいやら。

こんなことなら悩まずさっさと贈れば良かったと思うほど、彼女は喜んでくれている。

さと子ちゃんからこっそりと、「ほらぁ早く渡すべきだったでしょう?」耳打ちしてからかわれる始末。

自分の尻込みっぷりを知られていたから反論の余地もない。付け加えてこうも言われた。


「お嬢様は女の子の悦びに目覚ているんでしょうね。男装は相変わらずですけど、空さまの前では女の子でありたいと思っているに違いありませんよ」


歯磨きを済ませ、自室に足を運ぶと御堂先輩が敷布団の上に寝そべり台本を読みふけっていた。

片手にはサブで贈った銀のボールペン。

LED照明によって煌びやかにボディが輝いている。


小声で台詞を読み、思うことがあればメモをしているようだ。


気合が入っているな先輩。微笑ましい気持ちを抱きながら障子を閉める。


音に反応した王子と目が合った。

台本を閉じると、おいでおいでと手招き。

俺は肩を竦めて彼女の下に歩み、毛布の上に腰を下ろした。

髪を梳いて欲しかったらしく、体を起こすと枕元に用意していた櫛を投げ渡してくる。


はいはい、お世話しますよ。

微苦笑を零し、キャッチした櫛で先輩の髪を梳く。

自主的にスカーフヘアバンドを取った御堂先輩は右手首にそれを巻くと、ブレスレットにして身につける。


「さと子から聞いたよ。豊福、プレゼントを渡すことに躊躇していたんだってね」


不意に振られる話題。

……さと子ちゃん。早々に余計なことを喋ったな。

何もヘタレているところをチクらなくても。

羞恥を噛み締めていると、「だからファンの子が嫌だと言ったんだね」王子が揶揄してくる。


それは言葉のあやとして流して欲しいんっすけど先輩。


「手作りなんて無敵じゃないっすか」


まさかタイミング良くファンの子からプレゼントを貰ってくるとは思いもしなかった。

買いなおそうかと思ったほどだと、俺は素直に心情を吐露する。


だってお得プレゼントは総額二千円前後という……先輩には言えないけど。


「馬鹿だな。ファンの子には申し訳ないけど、僕はファンの子より豊福なんだ。君のプレゼントこそ無敵だよ。このプレゼントは君のバイト代からだろ?」

「こういう時のバイトっすよ。些少ながらも小遣いが持てるからバイトはやめられないんっすよね。俺、今まで自由に使えるお金なんて持ったことがなかったから」


家計上、両親に小遣いをねだる手は究極の選択だ。

どうしてもねだることに後ろめたさと申し訳なさが出て心苦しい。

実の親子じゃないから、そう思ってしまうのかな。

父さんや母さんが聞いたら寂しい顔をされそうだ。


「君がバイトで稼いだプレゼントなんだね」


まじまじとブレスレットを見つめる王子に、安価なもので申し訳ないと苦笑する。

かぶりを振る御堂先輩は再三再四大事にすると左の手でブレスレットを覆った。


その間に俺はさらさらの亜麻色髪を櫛で何度も梳く。

あちらこちらにはねている髪。でも触り心地は柔らかくてクセになるんだよな。


「土曜日の一件を、ねちねちと追究するつもりだったけど、なんだかどうでも良くなったな」


土曜日という単語にきょんと相手を見つめてしまう馬鹿な俺の脳裏に電波旋風が過ぎる。

見る見る血の気が引いた。

わ、忘れていた。

豊福は嘘つきだから体に聞くんだ宣言をされていたんだっけ! ちょ、ガチで忘れていたんだけど!


手を止める俺に悪戯っぽい笑声を漏らし、「プレゼントに免じて大型犬の件だけにしてあげるよ」と王子。満面の笑顔は可愛らしい、はず、なんだけど……あれ、オーラが禍々しい。


しかも大型犬?

一体何の話だと目を点にする阿呆な俺の脳裏に昼休みのあたし様暴風が過ぎる。


うあぁあああああ、歯形のことだ!

この人、ちゃっかし根に持っていたよ!

え、でも今、ほのぼの平和ムードじゃなかったっすか?

何がどうなってどうしてそこに行き着いちゃったの先輩!




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あきゅろす。
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