01-23
「豊福」蚊帳の外に放り出されていることが不快なのだろう。
早く話してくれるよう御堂先輩が催促してくる。
ぶり大根に箸をのばす。丸い大根を真っ二つに裂いて御堂家の視線の重圧に耐えていたけれど限界である。
俺は箸を置くと少し待っていて欲しいと言い、席を立つ。
マナー違反なのは承知の上、御堂夫妻に会釈をして大間を出て行くと自室へ。
鞄の陰に隠していた個包装されたプレゼントを引きずり出すと、溜息をついて部屋を出る。
「ああもう、ほんっと……上手くいかないな」
ぽりぽりと頬を掻きながら廊下を歩く。
途中、夫妻の部屋から出てきたさと子ちゃんと顔を合わせる。
寝支度をしていたのだろう。洗ったばかりの真っ白なシーツを持っていた。
何をしているのかと彼女に尋ねられたため、有りの儘に現状を伝える。直後、彼女から大笑いされてしまった。
「空さま。渡す手前で消極的になってどうするんですか。ファンの子など気にせずプレゼントを渡せば良いのに。私はお嬢様が帰宅してすぐに渡したと思っていましたよ。ほんと、空さまって普段は消極的な草食男子ですね。緊急時は此方が驚くほどの行動を起こすのに」
遠まわし遠まわしヘタレと言われている気がするのだけれど、さと子ちゃん。
「そのつもりだったんだけど、なんかタイミングが」
顔を顰めると、大丈夫だとさと子ちゃんが目じりを和らげた。
「お嬢様はきっとお喜びになりますよ。なにせ好意を寄せている方からの贈り物なのですから。自信を持って下さい。お嬢様の気持ちの比重はファンの子でなく空さまですよ。どーんと贈ってきて下さい! そして今宵は……あああっ、私ったらなんて桃色な妄想を!」
過度な応援と妄想を送ってくる最年少女中に一つ引きつり笑いを浮かべた後、俺は彼女と別れる。
大間に戻ると首を長くして待っていた王子と視線がかち合う。
まさか御堂夫妻の前でプレゼントを贈るなんて、こんなことなら腹を括ってさっさと渡せば良かった。
ヘタれているからこうなるんだよくそう。
彼女の隣に腰を下ろすと、「これ」持っていた包みを彼女に差し出す。
既存品で申し訳ないことを先に告げると、素直におめでとうの言葉を手向けた。
「先輩。これは俺から貴方に贈るお祝いっす。主役、頑張ってくださいね」
察しの良い王子はすべてを理解したのだろう。
箸を置くと嬉しそうにプレゼントを受け取り、「僕に?」確認を取ってくる。
安物だからあまり期待しないで欲しいと頭部を掻く俺に、「期待するに決まっているじゃないか」好きな人の贈り物なんだから、と御堂先輩。その場で包みを開け始める。
中から出てきたのはシンプルな銀のボールペン。ノックの部分に翼を模った飾りがついている。
これはサブだ。
包んでもらっている途中で味気なさを感じて他の物も詰め込んだ。
俺が悩みに悩んだメインはハンカチ! ではなく、スカーフヘアバンドと呼ばれるもの。
黒の下地に鋭利あるボーダーが乱雑に描かれている。
細いスカーフデザインで、ヘアバンドとしても使えるけど腕に巻いてブレスレットとしても使える両面性がある。まあお得ね!
……阿呆なことは置いておいて、何をプレゼントしようと考えた際、俺は視界に飛び込んできた女子高生達からヒントを得た。
女子高生達の通学鞄にはキーホルダーの他に装身具がついていた。
シュシュ(って言うらしいね。髪につけるあのゴム)を鞄につけてお洒落をしていた彼女達を目にして、「あ。御堂先輩といえば髪だ」と思いついたわけだ。俺は彼女の髪を触ることが大好きでよく弄っている。
なら髪に関するプレゼントをしようと髪留めを色々見て回っていたのだけれど、なにぶん彼女は短髪。選べる数は少ない。
最初はヘアピンにしようと思ったんだ。
男女の両面性を考えて、男の時は台本のしおりにでもしてもらえば良いし、女の時は髪留めに使用してもらえればなぁ、と考えていたのだけれど……雑貨店の店員さんがスカーフヘアバンドをすすめてくれて考えが変わった。
これならヘアバンドにもなるし、ブレスレットにもなる。男の場合であろうと女の場合であろうと気兼ねなく使用できる! なんてお洒落得でっしゃろう!
得に弱い俺はこれがいいと決めて、これを購入したいうね。
はは、御堂先輩の趣味なんてちっとも考えずに買っちまったよい!
お得のことは伏せておいて、髪留めにもブレスレットにもなることを伝えると、早速御堂先輩が腕に巻き始めた。それはそれは嬉しそうに。幸せそうに。
「うん、良い感じだ。ありがとう豊福。大事にするよ」
腕に巻いたスカーフを俺に見せる。
ほうほう、本当にブレスレットになっている。
良かった、お洒落に疎いから喜ばれるか不安だったんだよな。
満面の笑顔で応えていると、一子さんが御堂先輩の隣に移動してくる。
「ブレスレットだけじゃ勿体無いでしょう」
言うや、スカーフを解くと彼女を真正面に向かせた。
スカーフを細くしてカチューシャのように頭に通すと首の後ろで結び目を作り、それを手際よく整えた。
するとあらあら不思議。
短髪王子は瞬く間にプリンセスに変身した。女の子って身なりを変えるだけで見事に化けるよな。改めて思う。
「ほら出来た」
可愛いわ、一子さんが王子の両肩に手を置いてご満悦に笑う。
「立派な娘がいるじゃないか」
とても可愛いと源二さん。
やや感涙している様子。
普段が男の子だから余計に嬉しいのだろう。
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