01-19
閑話休題。
駅に着いた俺はATMでお金を引き出すと、蘭子さんと共に近場の雑貨店に赴いた。
幾度となく可愛いものが良いと言われた手前、可愛いものやポップンな雑貨を眺めてはみたものの、ふわふわとした白い毛玉うさぎの腕飾り。
ギラギラと光沢帯びたビーズで作られたリボン。
蝶の翅を模った重たそうなイヤリング。
見るからに御堂先輩の好みではなさそうなものばかりだ。
自分好みではないものを贈られても置き場に困るよな。彼女の苦笑いが目に浮かぶ。
蘭子さんが熱心にあれやらこれやらすすめてくるけどお値段的にごめんなさい、俺の所持金では足りませんレベルの代物だった。
パワーストーンを使った可愛いブレスレットとかなら先輩も使ってくれそうだけど……なんであんなに高いんだよ。学生に優しくない値段だったぞ!
少なくとも俺の財布じゃちょっと、である。見栄を張るのも手だけど追々を考えると、どうしても手が出せなかった。
高価なものは先輩にも気を遣わせそうだったしな。
何軒か雑貨店を見て回った俺はついに音を上げ、さと子ちゃんに電話をする。
こういう場合は歳の近いさと子ちゃんの意見を聞くのが一番だろうから。
勤務中だろうけど、蘭子さんの許可も貰っているし電話をしても大丈夫だろう。
ワンコールで出てくれた彼女に早速事情を説明してアドバイスを求める。
すると彼女から、『空さまが“これが良い”と思ったものがいいと思います!』と、ちっとも参考にならないお言葉を頂戴する。
これが良いと思うものが分からないから電話を掛けたのだけれど。
『そうですね。お嬢様は控えめな可愛いものが好きだと思いますよ。パステルカラーとか好きらしいですから』
「パステルカラー。これまた抽象的な」
『あくまで私の憶測なのですが、お嬢様の女の部分は清楚なものを好むと思います。男の部分は十字架やシルバーアクセサリーなどクールを好みますが、女のお嬢様はお花やクリスタルなどを好むと思います』
男女の部分を総称するとやっぱりシンプルなものが好きだろうとさと子ちゃん。
まとめるとシンプルで控え目な可愛いものが良いんだな。やっぱり漠然としていて具体的な雑貨が想像できない。無難にハンカチじゃ駄目かな。
暮れる空を仰ぎ、スマホを片手に頭部を掻いて吐息をついていると視界の端に名も知らない女子高生達が映った。
視線を通りに向ける。
通行人に聞こえるほどの声音で会話をしている彼女達はMックに行こうと盛り上がっている様子。
着崩された制服にジャラジャラと音が鳴っている通学鞄。
キーホルダーやシュシュなどの装飾品で着飾れている鞄はやけに重そうに見える。
『男の時も、女の時も使える物が良いかもしれませんね。お嬢様は露骨な女性扱いを嫌いますし』
さと子ちゃんの的確な意見と通り過ぎていく女子高生達。
男の時も女の時も使える物。
そうだ、どんなに可愛いものを贈ったって彼女は男の気持ちも胸に宿っている。
その部分を蔑ろにすることはできない。
彼女はそこを認めて欲しいと切に思っているのだから。
女子高生達を見送りながら俺は彼女の姿を思い浮かべた。
王子系プリンセスが好みそうなもの。王子の場合もプリンセスの場合も使えそうなもの……。
午後八時半過ぎ。
贈り物にあれこれ悩んでいたせいで、すっかり帰宅が遅くなってしまった。
時間も時間だし御堂先輩を迎えに行こうかな、とも思ったのだけれど、彼女はミーティング後に友人と遊びに出掛けたようだ。
蘭子さんの携帯にメールが届いていた。
心置きなく遊んで欲しかったため、迎えは控えておくことにする。
いつ帰るかも分からないし、時間を一々気にして欲しくもない。友達と目一杯遊んで早く傷心を癒して欲しいから。
御堂家に帰ると首を長くして待っていたさと子ちゃんから開口一番に何にしたのだと声を掛けられる。
自分の美的センスの無さに苦笑を零しながら、プレゼントの内容を告げると、「きっと喜ばれますよ」自分のことに喜んでいた。
中身はまだ見ないでおくとさと子ちゃん。
まずは御堂先輩が開けなければ意味が無いと言うため、中身は見せないでおく。
しかし買った手前、どのタイミングで彼女に渡せば良いやら。
自室に入った俺は浴衣に着替え終わると、机に着いて包装されたプレゼントと睨めっこする。
「喜んでくれるといいけど。こうして女の子にプレゼントすることって無かったもんな」
好きな女の子にプレゼントする機会は何度もあったというのに。
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