[携帯モード] [URL送信]
01-16




「アダダダダッ! せ、先輩、また噛んでっ、うひっ!」



再び首をがぶがぶしてくる鈴理先輩がおもむろに右の耳たぶを食んできた。

ぎくりと肩を震わせる残念受け身くんに、「美味い」と、まあ肉食お嬢様がこんなご感想をのたまった。


「首は歯ごたえがあるが耳たぶは柔らかいんだな。うむ」


なんぞ独り言をもらし、うんうんと首を振っては自己完結。

性的ではなく、食的に本当に食われそうな勢いである。


「俺を食うつもりっすか!」思わずツッコミを入れると、「当たり前だろう!」空を食わずにあたしは何を食うのだと鈴理先輩が大反論。

何故か逆ギレをしてくる。


「あたしはな、(性的な意味で)常に飢えているのだ。空を見る度に美味そうな肉だと生唾を飲み、その声音を聞く度に喘がせたい欲求に駆られ、顔を直視する度に泣き顔を拝みたいと本能が揺すぶられ……あたしの理性はギリギリだ馬鹿! あんたが誘うから!」

「り、理不尽! 俺がいつどこでどうやって地球が何回まわった日に誘いましたか!」

「あんたの存在がエロイ。この一言に限る」


だから責任を持って食べられるが良い。鈴理先輩は非常に傲慢かつあたし様的自論を述べ、骨ばった指で顎を掬ってくる。

ぶんぶんとかぶりを振っても人のネクタイを片手で器用に解き、


「なあに。痛いのは最初だけだ」


最後は快楽という天国を見せるから安心しろと言い、それを両手でビーンと張った。

目がマジだ。本気と書いてマジだよ、この人!


「大雅先輩ぃいい!」


貴方様の婚約者が暴走しています! SOS信号を出すと、悩む素振りを見せていた俺様が阿呆と鼻を鳴らしてくる。


「俺達は努力の末に婚約を白紙にした。仮だが、白紙にしたんだ。つまり俺は晴れて自由の身! 受け身危機回避! そいつのお守りから解放されたんだ! てことで、手前でなんとかしろ」

「そんな殺生な!」


先輩には慈悲がないのか!

俺の悲願にも、何処吹く風で大雅先輩は絶世の美形スマイルを作る。


「婚約中、俺は鈴理に幾多も噛まれて痛い思いをしたんだ。暫くはそいつのお守りなんざごめんだ。豊福、後は頼んだぜ。あ、お邪魔虫なら退散してもいいんだぞ」

「ギャァアアアア! それこそ死ねと言われているもんっすよ! 二人っきりになったら最後、鈴理先輩がどんな暴走をっ……あ、タンマタンマ! 鈴理先輩っ、まだ俺は大雅先輩とお話中っすからっ!」


どさくさにまぎれてネクタイで手首を縛ろうとする非情お嬢様にストップをかける。


「あたしを無視するからだ!」


不満げに脹れ面を作る鈴理先輩は、俺様でなく自分に構えと命令。

全力で緊縛を阻止しようとすると、その手を取るや否や思いついたと鈴理先輩は頭上に豆電球を浮かべた。

ぴこんぴこんと豆電球を明滅させる彼女はネクタイを自分の左手首と俺の左手首に回し、素早い手つきできつく縛り上げる。

「イ゛ッ?!」新たな悲鳴を上げる俺に対し、「これで逃げられないな」片手は封じられたがそれはお互い様。後は力でごり押しすれば良い話だと言い、鼻頭をぺろんと舐めてくる。


顔面紅潮。

茹蛸のように顔を赤く染めながら鼻を押さえると、脈ありだと彼女は口角をつり上げた。


「油断大敵。あたしは常に空を虎視眈々と狙っている。覚えとけ空、最後にあんたを食らうのはあたしだと」


至近距離で紡がれる宣戦布告。

形の良い唇は確実に人の唇を狙っていた。逃げるために全力で身をよじるけれど、縛られた先輩の左手が強引に人の身を手繰りよせてくる。

かろうじてすれ違うことに成功した彼女の唇の行き先は結局人の首筋だった。


悔しかったんだろう。

噛み付く力がとても強い。

内出血は避けられないだろう。

どうにかしてこの状況を打破するために、「そういえば!」首に走る痛みに悲鳴を上げながら俺は疑問を投げる。


「財盟主ってよく分からないんっすけどっ、アイデデッ、財閥界の偉い人なんっすよね?」


がじがじ、がじがじ、人の首を齧っている肉食お嬢様を差し置いて俺は俺様に視線を投げる。

呆れ顔を作って俺達の様子を見守っていた(というか流していた)大雅先輩は、「当たり前だろう?」と、これまた憮然に吐息をつく。が、すぐに態度を改めてくれた。庶民出の俺が無知だということを考慮してくれたに違いない。

彼は財閥界を取り仕切る長のような存在だと説明を始めた。


「財閥にはランクがある。それは知っているな? ランクはSからDまであるんだが」

「それは楓さんから教えてもらいました。大雅先輩達の財閥はAランクで上位だということも認知しています。どうも財盟主がいる家はSランクみたいっすけど」


ひっ、鈴理先輩が首を舐めっ、舐めっ……我慢だ我慢。今は話に集中しないと。


「ああ。財盟主の地位はデケェからな。財盟主は別名五財盟主とも呼ばれる。
言うなれば、財閥界の行く先をどうするのか断を下すお偉い幹部が御堂淳蔵以外に残り四人いるわけだ。財盟主がいる財閥の名を挙げると、まず豊福が関わっている御堂財閥を筆頭に丹羽(にわ)。大路(おおじ)。水前寺(すいぜんじ)。柚木園(ゆのきぞの)財閥の五つだ」


御堂。丹羽。大路。水前寺。柚木園。

以上、五つの財閥が財盟主のいる家なんだな。ふむふむ、なるほど。脳内メモに記録しておかないと。




[*前へ][次へ#]

16/31ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!