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01-15



ただ今はどうしても兄の行動が気になる。

返事をする際は事前に答えを教えて欲しいし、できるだけ兄に提出する返事は先延ばして欲しいと言って大雅先輩は目を細めた。

曰く、返事を待たせている期間に自分も行動を起こすと言う。


「兄貴の行動を知りたい。財盟主に喧嘩を売った後のことを一つも教えてくれねぇ上に、俺を差し置いて豊福に交渉を求めてきやがった。腹立たしいことこの上ねぇんだ。兄貴には百合子がいる。百合子は兄貴がいねぇとマジで駄目になるんだよ。馬鹿で電波な兄貴だが、危険なことだけはして欲しくねぇ」


語り部に立つ大雅先輩の表情が翳りを帯びる。訳ありだと一目で理解した。


「悪い豊福。悩んでるかもしれねぇが、ちょい俺に協力してくれねぇか? 兄貴が今、何をしようとしているのか知りたいんだ。手前で調べないとあいつは何も言ってくれねぇから」

「大雅先輩……分かりました。貴方に協力しましょう。俺も財閥界のことは無知なので教えてくれる人が欲しいところだったんっすよ」


婚約者にこんな話はできない。

俺が財閥界のことを知りたがると、すこぶる嫌がるんだ。

どうも彼女は俺が積極的に財閥界と関わることを良くは思っていないらしい。

また祖父に利用されるのではないかと懸念しているのかもしれない。


いや、十中八九そうだろう。

御堂先輩の傷心の大半は淳蔵さんに関することだから。


「鈴理も、兄貴が何か言ってきたら俺に言ってくれ。あの馬鹿、まじ何をしでかすか分かったもんじゃねえからな」

「ああ見えて楓さんは頭が切れるからな。うむ、分かった。協力しよう。空、あんたは財閥界のことが知りたいのだろう? あたしからも教えよう」

「え、本当っすか!」


意外だ。鈴理先輩なら顔を顰める側だと思っていただけに。


「本当は関わって欲しくないが、あんたの願いだ。聞かないわけにはいかないではないか。で、何が聞きたいのだ? あたしが教えてやろう。手取り、足取り、腰取り」


ちなみに一つ教えるごとに、お触り一回だと迫ってくる鈴理先輩の満面の笑顔に俺は顔を引き攣らせた。

そういう交渉には応じることができないので遠慮すると逃げ腰になると、持ち前の眼がハンターと化す。舌なめずりをして逃げる獲物の逃げ道を塞ぎにかかる。


俺も素早く足を動かすものの……わぁお、背後には壁! 目の前には狩人、からの逃げ道となる道は階段!


なんてこったい!

逃げ道が険しい!


そうこう思っているうちに鈴理先輩が胴にタックルしてバランスを崩してきた。

見事に転倒する獲物の上に馬乗りになる狩人、俺は悲鳴を上げて早々にギブアップを叫んだ。


「ちょちょちょ、鈴理先輩っ! 何を考えているんっすか! おぉおおお俺は婚約者持ちっすよ!」


すると鈴理先輩が壁にドンと手をついた。

ケータイ小説でお馴染みの壁にドン! である。

全国の女子の皆様が一度はイケメン男子にやられたいシチュエーションなんだろう? 迫られるこの場面に女子の皆様は胸キュンなんだろ?!


はは、よく知っているだろ?

俺も、随分とケータイ小説を読まされたよい!

現在進行形でやられている俺はキュン、どころか食われないかどうかガタブルしているけどさ!


「残念だったな空、あたしはカッコ仮付きカッコ閉じるでフリーの身だ。よって何をしても許されるのだよ!」


俺は許されないとゆーとるんですけど!
 
声音を大にして主張するものの、あたし様の耳には届かないようで有無言わせず首筋に噛み付いてきた。


「ア゛イッター!」


本気で噛んで来る鈴理先輩にイタイイタイと連呼するけれど、このお嬢様、ちーっとも放れてくれない。

傍にいる大雅先輩に助けを求めるものの、彼はこれからどうするかと腕を組んで悩む仕草を見せるばかり。

人の助けなんぞ見向きもしないという……わざとっすか、それはわざっとすか!

「せ、先輩……痛いっすよ」

が、ガチで痛いんだけど。先輩、本当に痛い。

「か、噛み癖つきました? 先輩っ、ほんと事あることに噛んできますよね?」

すると鈴理先輩が顔を上げてクイっと口角をつり上げた。


「こうした方がより誰が痕を付けたのかが分かるだろう? 歯形は個々人によって変わるものだからな。所有物には相応しい証をつけたいではないか。空、あたしはいつか必ずあんたを奪い返しにいくからな」


今は誰かの婚約者であっても、いつか必ず。

至近距離で綺麗な微笑を向けてくるあたし様を恍惚に見つめてしまう。

俺は確かにこの人の所有物だった。

あれやこれや理由をつけて逃げていたけれど、結局彼女に捕まって自ら所有物になることを望んだ。


俺達は相思相愛の仲だった。


でも彼女の両親が彼女の気持ちを許さず、俺もまた立場上、想うことを許されなくなった。

裂かれてしまった仲は彷徨い、結局彼女は二階堂財閥の婚約者に、俺は御堂財閥の婚約者になった。


――今も俺は御堂財閥の婚約者であり、それは揺るぐことのできない現実だ。


俺自ら婚約者であることを望んだんだ。


だから、これでいい。いいんだ。


嗚呼、心の奥底に沈めている気持ちが燻ったのは気のせいだと思いたい。



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あきゅろす。
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