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01-10




「君はもう財閥界から逃げられない。豊福くんは財閥の子と繋がりすぎた。
竹之内財閥三女と恋仲、二階堂財閥次男と友人、御堂財閥長女と婚約者。宇津木財閥次女とだって繋がりを得ている。身を引く道は塞がれてしまった。仮に玲ちゃんと婚約を解消しても、淳蔵は必ず君を狙う。それだけおいしい存在なんだよ。豊福くんって」


友好関係を築けば築くほど人は他者のために疾走する。

まるで自分のことのように他人(ひと)の悲しみを受け入れ、その人のために支えになろうと手を伸ばす。


一方、性根が腐った卑劣な財閥の翁は人の親愛に漬け込もうとする。

多くの財閥の人間と友好を結んでしまった豊福空の身は、そう簡単に財閥界から引くことができなくなってしまった。

少なからず強い繋がりを得ているのだから。


「豊福くん。これだけは覚えていて欲しい」


君は親しい財閥の人間達にとって弱点になりやすい最重要人物だということを。

サイドブレーキに手を掛け、楓さんがブレーキを踏む。

黄から赤に変わる三つ目の信号機が俺達を捉えた。


青になるまで動くなと脅しをかけているように、強い赤を発光している。


「釘を刺しに、俺の下へ?」


ようやく重たい口を開くことに成功する。

随分と小生意気なことを言ったけれど、相手は気にする素振りも見せない。

ハンドルから手を放すと両手の指をパキポキと鳴らし、眼鏡のフレームを軽く押した。


「答えは簡単。僕は君と友好を結ぶためにやって来た。僕は君とオトモダチになりたいんだよ」


斜め上の返答に間の抜けた声を出してしまう。

今の流れからすると、てっきり弟にあたる大雅先輩と関わるな、とか、婚約者の宇津木先輩と距離を置け、とか、そういった警告を向けてくると思ったのに。

まさかのオトモダチになりたい宣言。この人は何を考えているのだろう? 心情が一抹も読めない。


顎に指を絡め、ひとつ唸り声を上げる。

オトモダチになりたいねぇ。それはイコール、俺と親しい仲になりたいってことだろ? なんで俺とオトモダチに?


……確か鈴理先輩が教えてくれたよな。

財閥同士で共食いを起こすことがあるって。

いやいや大雅先輩のお兄さんだからあんまり、こういうことを考えたくないし疑いたくもないけど。


「楓さん。こういうのもなんですけど、俺の実家は財閥界もびっくり仰天の貧乏なんですよ。貧乏が恥ずかしいとは思いませんが、財力を考えると論外といいますかなんといいますか。所詮、豊福家の財力なんて御堂家の足元にも及びません。ええ及んでたまるかって話です」


もし、及んでいるなら今頃の豊福家はもう少し贅沢ができている筈なのだ。


例えば、板チョコを一気食いするとか。

納豆に入れる卵を黄身だけにするとか。

苺さんには練乳をかけるとか。

真夏には冷房を、真冬には暖房を、電気代など気にせずにガンガンにスイッチを点けて快適な生活を送ることもできるのだ!

俺の家にはクーラーすらないけどさ!


「いくら御堂家長女と婚約したからと言っても」


俺の家が裕福になったかといえばそれは否。実家の生活は相変わらずなのである。

御堂財閥の名を借りただけにしか過ぎず、仮に財力を得たとしても俺はその名にあやかっているだけだ。


しかも楓さんの言うとおり、財閥界に関しては無知も無知。

某令嬢令息に比べると、実力なんて皆無に等しい。幼少から英才教育を受けていた彼等と平々凡々に暮らしていた俺では比べ物にならない。


そう、庶民出の俺の力はその程度なのだ。そんな男に易々と財閥の行く末を託すだろうか?


「確かに俺は一部の人間の弱点になりえるでしょう」


けれど、果たしてそれが御堂財閥自体を揺るがす弱点になるかどうか。既に答えは出ている。


「とどのつまり、御堂玲の婚約者は骨と皮ばかりで財という肉はなく、食べるところがまったくないんっす。俺を媒体に御堂財閥と繋がろうとしているなら期待しない方がいいですよ」


相手に不快を与えるかもしれないけれど、この際だからしっかり明言しておく。

俺を媒体に御堂財閥と繋がろうとしても期待に応えるようなことはできないのだと。


大雅先輩のお兄さんである楓さんを疑いたくないけれど、こうして助言をしてくれる彼には何か裏がありそうで怖い。


どんなに電波青年であろうと、語り部に立つ時の彼の醸し出す空気は異様だ。


まずこの歳になってオトモダチになりたい、だなんて面と向かって言うだろうか?




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