01-02
数人の同志を思い浮かべた後、脳内を人材育成候補に切り替える。
まず思い浮かべるのは弟だ。
特別なにかに出(い)でているわけではないが、何か秘めた物は持っているに違いない。これは兄の勘である。
次に許婚。楓は眉を下げてしまった。
人材育成にすら入れたくないのは自分個人の私情が混じっているからだろう。
自分に百合子の育成ができるのだろうか。
身を守る程度の育成は可能だが……複雑な心情が渦巻いた。
「鈴理ちゃんはリーダーシップを発揮するタイプだって真衣ちゃんが言っていたんだよな。それは僕も思う。玲ちゃんも鈴理ちゃんと似たタイプだから、きっとリーダーシップを発揮するんだろうな。……あとは」
御堂淳蔵と関わってしまった少年を思い浮かべ、楓は腕を組んだ。
「財閥界で生きられる子かな」
いや淳蔵と関わってしまった今、死ぬ気で生き抜かなければならない。
利用されてしまった傷もあるだろうが、それでも乗り越えていかなければ前へ進めない。
「彼には嫌でも僕側についてもらわないとな。源二さんや淳蔵と直結しているし……とはいえ、ちゃんと喋った記憶がないからな。いきなりこんな話をされても警戒心を抱かれるだろうし。まずは知人、オトモダチから始めないと。
……そうだ! こういう時こそ大雅だ!」
大雅伝いに彼と対面すれば、抱かれる警戒心も少なくて済む!
我ながら名案だ。
よしよしと頷き、楓は早速弟の部屋へ向かった。
思い立ったが吉日、行動あるのみである。
「たーいが。ちょっとお兄ちゃん、君に頼みごとが……って、あれ」
ノックなしに弟の部屋へ飛び込んだ楓は拍子抜けしてしまう。
お目当ての弟がいなかったのだ。
はて、何処へ行ってしまったのだろう?
本日は土曜、補講は午前中に終わっているのでもう帰宅している筈なのだが。
習い事にでも行ったのだろうか?
ポリポリと頬を掻いて部屋を見渡す。
机上に放られている通学鞄を見る限り、帰宅はしている。
やはり習い事だろうか。
ちぇっ、舌を鳴らす楓が踵返そうとした時、視界の端に機器が映った。
弟のスマートフォンである。
スマホがあるということは弟は家内にいるのだろう。
足を止めてそれを見つめていた楓は、頭上に豆電球を浮かべて指を鳴らした。
机に歩んでおもむろにスマホを手にすると、鼻歌交じりに画面をタッチしてアドレス帳を呼び出す。
発信と表記された画面を指でタッチし、それを耳に当てる。
四回目のコールが途切れた頃合を見計らい、楓は満面の笑顔で口を開いた。
「オレオレ、俺様だけど! 今からお茶しねぇ?
……え、貴方は誰だって? 何を言うんだよ。俺様だよ豊福! クールでビューティフルな大雅様だ! いいかい、俺様は今から君とお茶をすると決めたのだ!」
電話向こうの相手に多大な警戒心を与えてしまったことは言うまでもない。
数分後。
大雅は自室に戻った。
彼はシャワーを浴びていたのだ。
気分で帰宅後にシャワーを浴びることがある大雅は真っ先にスマホを手にするため机へ向かう。
最近スマホ専用のダンジョンゲームにハマッているため、それをしようかと思っていたのだが……あるべき場所にスマホがなく、代わりにメモ用紙がひっそりと息を潜めていた。
「あ?」
間の抜けた声を出し、大雅はそのメモ用紙に目を通す。
『借りた!』
走り書きで記されていた一言に、俺様は口元を引き攣らせ、メモ用紙を握りつぶした。
「あーんのクソ野郎っ、なんで俺のスマホを持っていきやがるんだっ!」
勿論、犯人が誰なのか、大雅には容易に目星がついている。
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