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これはオレサマ詐欺である



【二階堂家・長男の自室にて】
  

 
「遊佐財閥に属する上場企業の株価は急上昇。M&Aの効果が要因だと推測できるね。
一方で、鴇田財閥に属する上場企業の株価が暴落している。貿易を主としている企業だからかな。近年の日本は貿易赤字だからね。赤字は仕方がない環境に立たされているけれど、それにしても数値が異常だ……企業にとって曝け出されたくなかった不祥事が報道されたからかな?」
 
 

薄暗い部屋。

彼はピアノの鍵盤を弾くように、膝の上に載せていたノートパソコンのキーを叩いていた。


カタカタと不規則に鳴り響くキーの音が部屋を満たし、忙しない空気を一室に作り上げている。

部屋の住人は気にすることもなく、ただただディスプレイに表示されたグラフと数値を見つめていた。


滑らかな指さばきでキーを弾く。その指が自身の顎に向き、それに指を掛けた。


一思案した後、アームチェアを回転させてデスクと向かい合う。

デスクトップPCのキーボードを叩き、ファイルの中からデータを呼び出した。
 

「やっぱりね。遊佐財閥の持つ上場企業は、御堂財閥とも提携している。鴇田財閥とは競合企業だったってわけか。不祥事を公に曝す、あいつらしいやり方だよ。また相手を食ったね、御堂淳蔵」

 
皮肉を口にした二階堂楓は身を引き、チェアの背もたれに寄りかかる。

ずれた眼鏡を一旦外し、目頭を押えて凝り固まったそこを揉み解した。


「どうやって相手の不祥事を探ったやら。やり口が狡い」
 

株価の分析をするだけで、相手のやり方が見えてくるものだから嫌になるものだ。

楓は小さな吐息をつくと、レンズの汚れを取るためにデスク上に放置していた眼鏡ケースを手に取る。

中から眼鏡拭きを取り出し、やや白っぽくなっているレンズの表面を綺麗に拭(ぬぐ)った。

 
「御堂淳蔵を、五財盟主を相手にするには、それなりの人脈が必要不可欠だな」
 

候補に御堂源二を入れているが、彼が簡単に自分と手を結んでくれるかどうか。


「玲ちゃんに接近するのも手だけど」


彼女は男嫌いだし、祖父に抱く私情が大きすぎる。

リスクを考えると良い案だとは思えない。


なにより、彼女とは幼少からの顔なじみ。

あまりこういった≪大人の事情≫に巻き込みたくない。


それは実弟や許婚にも言えること。
  

「ただ、大雅は首を突っ込んでくるだろうな。僕が馬鹿な宣言をしたものだから」
 

容易に想像がついてしまう。

微苦笑を漏らし、眼鏡を掛けた楓はノートパソコンをデスクに置いて窓辺に向かう。


閉め切られたカーテンを勢いよく開ける。

眩しい日差しが眼球を焼いた。


眩む光に顔を顰めつつ、楓は手を天に翳して日光を浴びる。

暖かな日差しはささくれた心を癒してくれる気がした。
 

「いずれ大雅や百合子さんは薄汚れた財閥界で生きていくことになる。巻き込みたくないと思えど、彼らが知らず知らずに巻き込まれていくのは必然……か」
 

今の自分に財閥界を変える力があれば良いのだが、所詮は若造。

高すぎる理想を持つハナタレだ。


そんな自分が五財盟主のひとりに喧嘩を売ったのだから、それなりに行動を起こさなければ。


細めていた目を徐々に開き、


「人材育成と人脈確保」


これがこれからの僕の目標だ。

楓は決意を宿した独り言を零す。


確実に自分側についてくれそうな人間を脳内でサーチする。

自分と同じように五財盟主に立ち向かってくれそうな人間は大抵、楓と同年代である。


例えとして竹之内財閥の次女が挙げられる。

幼少からの付き合いである彼女とは幾たびも五財盟主ないし財閥界の不服を語った仲だ。

財閥界を冷静に分析できる彼女は協力してくれるだろう。
 
 

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あきゅろす。
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