02-07
「何かを壊すこと、消すこと、廃部にすることは容易です。しようと思えばすぐにできます。けれど、新しいものを創る。これは時間を要しますし、とても難しいのです。一から創るって大変でしょう? 活動方針を決める。スケジュールを考える。目標を立てる。どれも簡単ではありません」
それでも貴方達は作りたいのでしょう? 一度は廃部になってしまった茶道部を。
いえ、古い茶道部の観念を捨てて、自分達の目指す茶道を含めた総合茶部を。
ならば、是非とも自分達で創って頂きたい。
私が手を出すのはあくまでお手伝い程度、基本的にはあなた方の手で部を創って欲しいのです。
私が手を加えたら貴方達の目指す理想部とは違うものになりかねません。
「英輔くんや龍之介くんは総合茶部を設立して、どのような部にしたいとお考えなのですか?」
質問返しを食らい、ぼくと仲井は視線を合わせた。
「どうってそりゃ」廃部になってしまった茶道部のようなことをしたいというか、茶と関わりたいというか、言葉を濁す仲井。
少し考える素振りを作り、間を置いてぼくも答える。
気軽にお茶と触れ合えて、尚且つ色んなお茶に関わりたい。
あわよくば気の合った仲間と語り合いたいし、一緒にお茶を学びたい。
なによりも楽しくお茶と触れ合える環境を作りたい、と。
ぼくらしくない言葉にギョッと驚く仲井。
その隣で、「そうだよ」ポンと手を叩き、驚きかえっている仲間に同意を求めた。
「やっぱ部活を立ち上げるなら楽しい方がいいよな」
「それは、そうだが」
「気軽にお茶の事を語れて、尚且つ一緒に触れ合える部にしたいっつーかさ。ああ、もちろん初心者でも楽しくお茶に触れられる、興味を持てる部にする。これだよこれ!
語彙力がないから、これをなんて説明すれば良いか分からないけど、とにかくこれだ!」
この学校の生徒なら、うんにゃ、お茶に触れたいと思った奴なら誰でも気軽に触れられる環境を作る部にしたい。
自分でも信じられないほど興奮しているのはあれか? 気持ちに熱が入っているからか?
握り拳を作って立ち上がるぼくに、「恥ずかしいから座れ」貴様のリアクションは一々オーバーなのだと仲井が唸る。
そんな彼にぼくは思わず反論。
「バッカ、この気持ちは君のモノなんだ。つまり、ぼくをこうさせているのは仲井くんのせいさ!」
「なッ…、阿呆! 貴様は状況判断の一つもできないのか?!」
二人きりならまだしも、ここは職員室だぞ!
その話題は伏せろっ、考えて物を言え! 注目されるだろうが!
喝破してくる仲井に、「君も注目の的だね」ぼくと同じことをして目立っていると笑声を上げた。
ハッと我に返る仲井が恐る恐る一室を見回す。
そこには何事だと此方を観察してくる教師や生徒諸々様が。
サーッと青褪めてしまった銀縁眼鏡くんに口角をつり上げ、無理やりキャツを立たせると、「どーも!」この度、部活を作ることになったナカイコンビです! なーんて注目を利用して宣伝開始。
「おまっ」絶句する仲井を余所に、「茶道部を復活させたい文系男子でぇす」だけどこう見えて肉食男子なんでぇす、と合コンのノリをかましてやった。
「もっといえば新たな茶部を作りたい革命男子だったりしまーす。部が出来たら、どうぞご贔屓を。お茶を立てて待っていますんで! 女の子も募集しちゃいますよー! 年上大歓迎っす!」
「中井英輔! 貴様っ、もう黙れ! ノリが合コンだ!」
あったりまえだ。
合コンのノリでかましているんだから!
「えーっ、じゃあ君は野郎二人っきりだけの寂しい部にしたいのかい? ぼくと二人っきりでまーいにち顔を合わせて、お茶を立てるんだぜ? そんなの熟年夫婦でもない限り無理だ。絶対無理だ。ぼくは堪えられない! いや、君となら熟年であろうと無理だ!」
「おれと貴様を夫婦(めおと)にするんじゃない! 気色が悪い!」
ある意味、息の合った漫才をかまし、「ですよねぇ!」ということで、野郎も募集しますけど、女の子も大大大募集しちゃいます! ぼくはノリノリで部の宣伝をした。
ここで疎い仲井はようやく乗せられたのだと気付き、額に手を当てて舌を鳴らす。
小声で「貴様。いっぺん殺すからな」とか物騒なことを言われちゃったけど、殺す暇があったら部の宣伝しようぜ。部を考えようぜ!
ピンチはチャンス、逆境もチャンス、注目もチャンスなんだ。
状況に応じてじゃんじゃん、部のための活動しないとな。
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