02-05
「ぼくの話なんてどうでも良いだろ。それより、部活だよ部活! 仲井くん、計画は練ってきてくれたか?」
しゃらくさい空気を換気するために、話題を丸々変更。
勢い良くテーブルを叩き身を乗り出して相手に尋ねると、向こうは体ごと身を引いた。
「近いぞ!」本調子に戻ったことにホッとしているのか、キャツもいつもの調子で怒声を張ってくる。
うんうん、この空気だよ。
ぼく等にはこの空気がお似合いだ!
満面の笑みを浮かべて椅子に腰を落とすぼくは、「こっちはなスケジュールみたいなの作ってきた」傍らに置いていたノートを相手に見せ付ける。
仲井はそれを受け取り、ぱらぱらと中身を開いて目を通し始める。
「ほぉ。意外と普通に組んであるな」
普通に褒めるってことをしてくれないのか? こいつ。
片眉根をつり上げるぼくを余所に、「茶道は週に二回になっているな」キャツは意見を述べてきた。それにはすかさず答える。
「毎日道具を使っても良いけど、抹茶代とか菓子代とか無駄に掛かるかなぁって思ってさ」
それに他のこともしたいから、茶道は週に二回にしようって思ったんだ。
ああそれと部活自体も毎日するんじゃなくて、曜日で活動しても良いかなって思うんだけど。
運動部みたいに大会があるわけでもないし、美術部みたいにコンテストに作品を出すわけでもない。
都合を色々を兼ねると曜日活動も捨てがたいと思ったんだ。学生の身分上、何かと勉強面での予習復習が煩いしね。
「ま、これはあくまでぼくの意見。仲井くんも何かあれば遠慮なくどーぞ」
「その方針に異議はない。考えていないようで考えているものなのだな、お前は」
だから、褒めることをしてくれないのかい?
少しは「ここまで考えているんだ。凄いね!」とか言ってくれても……、期待するだけ無駄だろうけどさ。
「おれは活動の全体図を考えてきた」
仲井が持参しているノートを手渡してくる。
どらどら。
中身を開いてびっくり仰天。文字数半端ねぇっ…、てか走り書き読みにくっ! これに全部目を通せ、と? 通してしまえ、と?
相手をチラ見すれば意気揚々と腕を組んでぼくの反応を待っている仲井の姿が。
優しいぼくは、テンションをハイにして「すっげぇ!」と声を出した。
ぼくは仲井と違って褒めることをしてやる男だからね、大袈裟に褒めてやるのさ!
「うっわ、テーマごとに区切られている。茶道に、日本のお茶。アジアのお茶に、西洋のお茶…? あ、ぼくの意見も反映されてるじゃんか!」
「ああ。貴様の言う“総合茶部”は面白そうだからな。その指針に乗っ取ってみた。ただ活動目的だけが思い浮かばずに困っているのだが」
明確な目的がなければ同好会であれ、部活であれ、生徒会に書類を提出できないし、受理もしてもらえないだろう。
ご尤もな意見にぼくは顔を顰めた。それはぼくも悩んでいた問題だ。
幾らスケジュールを決めようと、活動内容を決めようと、顧問や活動場所が決まっていようと、活動目的を明記しないと部活は立ち上げられない。めんどくさいけどちゃーんと考えないとな。
これはムッちゃんに相談してみた方がいいかもしんないな。
「なあ、放課後にムッちゃんのところへ行ってみようぜ。ムッちゃんなら良い案を出してくれるかもしれないし」
「向井先生か。……大丈夫だろうか」
「へ?」間の抜けた声を出すぼくに対し、「あの先生は頼れるが」少しばかり難があってな、と眉根を顰める仲井。
Mハゲに反論してくれたり、生徒を庇ってくれたり、好い先生だと思うんだけど……、何か問題でもあるのかなぁ?
そう疑問に思うぼくはこの時、ムッちゃんの性格をすっかり忘れていた。
彼女が底知れぬマイペースの持ち主だということを。
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