01-20 「茶道を学びたい。その気持ちで私のところに使用許可を求めてくるのです」 実際、部屋の使用前後には掃除をしてくれます。茶道具と共に。 私はあの子達の茶道に対する熱意に感銘を受けて鍵を渡しているのです。勿論、私の責任の下で。 野津地先生、たとえ立派な和室や道具あれど、使用しなければ宝の持ち腐れなのですよ。 あの部屋も道具も使用されず、何年も息を潜めてきました。 可哀想に、本来使われるべき姿をお披露目することも出来ず、日の当たらないところで時間を過ごしてきたのです。 和室は値が張っていることでしょう。 四畳半であれど、立派な造りをしているのですから、それはそれは高価な教室だと思います。 しかし此処は学校であり、子供達の学び場。 子供達が部屋を使用しなければ、あの和室も無意味なのですよ。 「私よりもお若いというのに、野津地先生は随分とお堅いんですね。それでは子供達と仲良くは出来ませんよ」 グッドで痛烈な嫌味返しに、野津地は引き攣り顔を浮かべた。 あんまり生徒に好かれていないって自覚しているのかもしれないな(ぼくもお前のことは好きじゃないけどさ!)。 だけど向井先生の言葉には感動したね。 あの先生、むっちゃ好い先生じゃん! 授業は延び延びになるし、マイペースで勘弁してくれって思うけど、人柄は最高じゃん! 何より、ぼく等を庇ってくれたんだ。 これ以上にないってくらい好い先生だと思わないか? 仲井に同意を求めると、「利用したのは不味かったか」生真面目な性格が災いしているらしい。 かーんなり責任を感じているようだ。 「仲井くん」君は遊んでいるわけじゃないだろ? 茶道に触れたい、だから交渉を持ちかけたんじゃないか。ぼくの言葉にすら否定的返す。 「向井先生の厚意は嬉しいが、学校側から見れば迷惑な行為だったのだ。確かに傍から見ればおれのしていることは、遊び程度にしか見えない」 「そんなことないって。そしたら全国の茶道部の皆さんはどうなるんだよ。お遊びで部活をしているのか?」 「そうは言っていない。しかし、茶道部には部活という前提の組織があるのだ。おれは…、単独だしな」 じゃあ何か、組織は遊びじゃなくて、お前がしていることは遊びってか? そんな馬鹿な。 少なからず仲井は遊びたいという気持ちで向井先生と直談判していたわけじゃないだろ? ぼくはお前の気持ちを持っているから、それをよく知っている。 だってぼくはお前の気持ちで散々振り回された。 買いたくもないお茶を沢山買い込み、茶道雑誌を買い、挙句お前の都合につき合わされている。 知っているんだからな。お前が茶道部で使っていた道具に触れられて、和室の使用許可をもらえて、すっごい喜んでいたって、ぼくは知っているんだからな。 お前自身は表に出せずにいたし、自身で感じられなかっただろうけど、ぼくの中で確かに感じたんだ。 そりゃ無愛想だし、ジコチューだし、傍若無人の生きた武士だけど、お前の、茶に対する気持ちは遊びじゃなくて、いつだって真剣だって知っている。 知っているから向井先生だってお前に加担したんじゃないか。 お前が否定的でどうするんだよ、おい。 「仲井くん。君はぼくに言ったよな。『ふらふらと遊んでいる貴様と違うんだ。茶に対して努力していたか知らないだろ?』って」 だからなんだって顔をされたけど、ぼくは目を細めて「その言葉に偽りはないよな?」と詰問。 「何が言いたい?」詰問返しを食らわせてくる仲井に答えるよう促した。 胸倉を掴んで何が言いたいんだと怒気を纏ってくる仲井に、「だから」努力していたんだろ? 遊びじゃないんだろ? と詰問の詰問。 「当たり前だ。貴様とは違うんだからな」 舌を鳴らしてくる仲井は今にも掴みかかってきそうだった。 あ、いや、実際には胸倉を掴まれているけど。 聞き買った言葉を聞けたことにぼくは一変して綻んだ。 「なら良かった」じゃあ今からぼくがすることは無駄にならないな。そう言うと仲井が間の抜けた顔を作る。 「はあ?」 貴様、何を企んで…、珍しくうろたえている仲井をシカトすると胸倉から手を放させ、腰を上げた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |