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01-02
 
 
  
「―――…はぁあ、まさか仲井くんとこんな形でランチができるなんてね。光栄も光栄だよ。三年という学校生活の中で、仲井くんと二人でランチをできるとは思っていなかったんだ。人生ってなんどき、何が起こるか分からないものだね。わぁお不思議ミステリー!
さてと、仲井くん。そろそろぼくは喋り疲れたんだけど、何か話題はないかい? 話題は。ぼくひとりで喋り続けるのは非常に辛いんだ」
 
  
「では助言しよう。黙って食せ」
 
 
涙ちょちょ切れの昼休み。

なにが悲しくて仲井とランチをしなければいけないのか分からないけれど(いや分かるけど)、ぼくは仲井と楽すぃランチタイムを迎えていた。


場所は食堂。

ざわついた環境の中、長テーブルの一角を陣取り、各々うどんを啜っている。


ちなみにぼくは海老天うどんで、仲井はわかめうどん。かしわおにぎりと一緒に食しているわけですが、なかなか辛い状況に立たされているという。
 

なにせ、お互いに会話がない。

一緒にランチをしているにもかかわらず、話題が見つからずにひたすらうどん麺をずるずる。ずるずる。ずるずる。


これは一体なんの罰ゲームなのだろうか。

会話に囲まれて過ごしているぼくにとって耐え難い状況だ。

一応同い年なんだからさ、何か共通した話題があるんじゃないかと意を決して喋りかけてみたものの、向こうは相槌すら打ってくれねぇやい。

喋り疲れたと言えば、「黙って食せ」だぜ? そろそろ泣くぞ。


(女の子と二人でメシを食うならまだしも。苦手な奴と二人でメシとか)


気持ちが入れ替わってしまったんだ。

こいつがぼくの言動に警戒して、自分の気持ちを穢されないようべったりなのはしゃーないと思う。

が、ぼくにだって自由があってもいいじゃないか。


我慢してお誘いは断っているんだ。

せめて昼休みは自由に過ごさせてくれても!
 

海老天の衣を綺麗に剥がしながら心中で泣いていると、「行儀の悪い食い方だな」仲井に注意されてしまった。

やーっと向こうが喋りかけてきたってのに、まさかの注意。お小言。一抹の嫌味。


お前はお嫁さんを弄る姑さんか!


「煩いな」海老と衣は別々に食べるのが好きなんだよ。

鼻を鳴らして、剥がれた衣をスープにたっぷり浸す。

憮然と一瞥してくる仲井はそれ以上の言葉を発そうとしなかった。

こいつには愛想というものがないのか?

上辺だけでも愛想よーくお喋りしてくれても良いだろうに。


だからオトモダチが少ないんだよ。

てか、いないだろ? 仲井って常に一人で行動しているし。
 

頬杖を付いて相手の食べている姿を観察していると、「肘」これまた食事の作法で注意を頂いた。やってらんねぇ。


深い溜息を零し、「ぼくに貼り付いて疲れね?」本音を伝える。

「ああ疲れる」相手は即答してくれやがった。


良かった、やっと君と共通の話題が見つかった。


ぼくは超絶嬉しいよ。
ちょいと腹が立つけど。


わかめを掬い上げ、口に放って咀嚼する仲井は冷たい眼をこっちに流してきた。


「貴様と共に行動するのはとても疲労はする。だが、おれの気持ちが貴様に宿っている以上、嫌でも関わっていくさ。茶に対する気持ちを返してもらうまでは」

「ぼくだって女の子に対する気持ちを早く返してもらいたいよ。仲井くんってさー、めっちゃお茶好きだろ?」


「何を今更」ズズッとスープを飲んでいる仲井くんに、「今のぼくはさ」君の気持ちのせいでお茶を見ただけで惚れしちまうんだよ、と項垂れた。


「なにか遭ったのか?」


どんぶりを置いた仲井くんは初めて興味を示した眼をぼくに向けてきた。
 

「昨日だってお茶を大量買いしてさ。仲井くん、いづ屋って知っている? 小さな和喫茶店なんだけど」

「ああ、知っている。あそこの茶は美味いと評判だからな。おれはまだ行ったことないが」


「マジで? あそこのお茶は素晴らしいぞ! 特にほうじ茶が美味しいらしいから試し飲みをさせてもらったんだ。そりゃあもう風味が天下一品でさ! つい、五パックも大量買いしたんだよ!」


たださ、ひとつ悩みなのは家で飲んでもあんま美味くなかったんだ。

いや美味しかったっちゃ美味しかったんだけど、店で飲んだヤツと家で飲んだヤツじゃ断然店のが美味かったんだ。


なんでだろう?

まさか試し飲みのお茶っ葉は高価なもので、購入時のお茶っ葉は安価なものだったり?


だったらぼったくりだと思うんだけど。
 
 

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