<2>これが悲劇である。
そんな彼と接したのは三日前。昼休みのことだ。
確かあの時、ぼくは友人から返してもらったグラビア雑誌を持って廊下を歩いていた。
友人が飽きたという理由から気前よく別のグラビア雑誌を譲ってくれたもんだから、ぼくの足取りは超浮き足。
ハイテンションもハイテンションだった。
「やっべ。安永ルイちゃんの特集が乗っている雑誌を貰えるとか、今日はツイてるよな。丁度ハマり始めていたんだよな、ルイちゃん」
どれ、ちょっと中身を拝見しようか。
きょろきょろと周囲を見渡し、カモフラージュのために教科書とノートの間に挟んでいた雑誌を取り出す。
「可愛いなぁ!」表紙だけでめろんめろんになってしまったぼくは、ルイちゃんのバストに釘付け。
ぼいんな谷間にでれでれと頬を緩ませてしまう。
「ルイちゃん。ゼブラ柄のビキニ似合うな」
こういう水着ってそそるんだよな。
まったく、ルイちゃんも罪なグラビアアイドルだよ。
鼻歌を歌いながら表紙に見惚れていると、階段に差し掛かった。
浮き足のぼくでも階段に差し掛かっていることくらいは把握できた。把握は。
ただ、それ以上にルイちゃんの胸……、じゃない、素敵ゼブラ柄水着姿に見惚れていたもんだから階段のわずかな段差、すべり止めのノンスリップ部分に爪先を引っ掛けてしまった。
「うわっち?!」
がくんと視界が揺れ、体が傾いて転倒。
その時、偶然雑誌を見ながら階段を上っていた仲井がぼくの前に現れた。
彼はぼくの転倒に気付く前に、落下者と激突。揃って踊り場まで落っこちた。
その瞬間、ぼくは頭の中で火花が散ったのを憶えている。
暗夜に浮かぶ真っ白な火花と表現するのが正しいだろう。
けどその火花は痛みに対する火花だったと当時は思っていた。
だって仲井と頭をごっつんこしたのだから! 表現は可愛いけど、目から星が出たよ、マジで!
「アデデデデッ。ご、ごめん仲井くん。大丈夫か?」
くらくらするような頭痛に襲われつつ、上体を起こし、ぼくは巻き込んでしまった仲井に謝罪。
「大丈夫だ」おれも余所見をしていたと謝罪をしてくる仲井に、三度謝罪して散らばった雑誌と教科書類に手を伸ばす。
仲井も雑誌に手を伸ばし、各々無事を確認して踊り場を退散した。
この時、ぼくはホッとしていた。
だって苦手な類いの仲井と一緒に転倒してしまったんだ。
冷然な眼を向けられ、無茶苦茶に怒られるんじゃないかと冷や冷やした。
ま、向こうも雑誌を読みながら歩いていたみたいだから、不幸中の幸いってところだ。
駄目だよな。
ツイているからって、浮き足になってちゃ。
「雑誌は無事だよな。大切なものなんだけど」
手に持っていた雑誌を観察し、折り目等々がないことを確認。
これにもホッとを胸を撫で下ろす。良かった、雑誌は無事みたいだ。
「さてと、礼儀作法は何ページの載っているんだっけ」
立ち止まってぱらぱらと中身を捲る。
そこには茶道に対する基本的な礼儀作法が載っていた。
おもてなしの心、飲み方、歩き方などの立ち振る舞いが載っていて、目を通すだけでうきうきする。
そう、茶を学ぶことがとっても。
……とつてもうきうき? あんれ?
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