01-27
「中井英輔。おれはな、確かに生粋の茶好きだ。茶に関することならばなんでも知りたくなるタチだ。先ほど、貴様が提案した海外の茶に対する視点。その発想がなかったために学んでみたいな、と深く頷かされた」
「うんうん、それで?」
「だがおれは貴様のように、茶を衝動買いする性格は持ち合わせていない。計画を立てて購入するようにしているんだ。つまり、茶好きの気持ちはおれの気持ちそのもののせいだが、衝動買いをしてしまうその性格は貴様自身の問題だと思う」
「現におれだって」貴様の気持ちを持っているが、女に対して猪突猛進をしているわけではないだろ? 女に目は向いてしまうが。合コンに行きたいと発言をした覚えもないし。
「その行動はおれの気持ち、というより茶好きになった自分バージョンだと思った方が良いだろうな」
言いづらそうに顔を顰める仲井は、「普段から」何かと衝動買いしているんじゃないか? と物申してきた。
まったくもってそのとおり。普段からぼくは目に付くグラビア雑誌を買い漁っていたし、欲しいと思ったものはお金が許す限り、浪費して、い、た。
じゃあ、この衝動買いはぼく自身の問題?
……嘘だろっ、今まで仲井の気持ちのせいだって思っていたのに! 仲井も同じ事をしていると思っていたのに!
サーッと青褪めてしまったぼくは、「い。今すぐにぼくの気持ちを返してくれ!」相手の腕を掴んだ。いや、縋った。
「このままじゃぼくはお茶によって破産しちまう! 自分でも分かるんだ。ぼくってすぐ親に前借りして物を買っちまうタイプだからっ…、わぁあああああ! お茶に無駄遣いとかっ、お茶で前借りとかありえそうで怖い! いざ元に戻った時、ぼくは雑誌も合コンにもいけなくッ…、仲井くんぅうう!」
「自制しろ。それくらい簡単だろ?」
「できないから困っているんじゃないか! こんなそば茶を買っちゃってッ…、いや飲んでみたいと思ってッ…、こ、これがぼくが茶好きになったバージョンの行動だなんて!」
テーブルに撃沈するぼくに、「金銭管理が甘いな」仲井があきれ返っておはぎを完食する。
グズッと涙ぐみ、ぼくは絶望も絶望。
えぐえぐと泣きながら、「お茶と決別したい」どうせなら珈琲と恋人になりたい、置かされた状況に泣き言を連ねる。
「返してくれよ仲井くん。ぼくの気持ちっ! じゃないと、珈琲と浮気してやるんだからな! 何が悲しくてお茶と恋人になんなきゃいけないんだよ!」
「ばっ…、馬鹿。声がでかいぞ!」
「ぼくは女の子が好きだった筈なんだ! なのに君の気持ちのせいでっ、浮気ッ…、君って男のせいでっ、ウワァアアアアアア!」
「な。中井英輔」頬を引き攣らせる仲井は居た堪れなさそうに抹茶を啜った。
気にする余裕のないぼくは、「女の子」おんにゃのこにきゅんしたいと愚図る。
お茶なんて大嫌いになってやる、いやでもなれない。
嫌いになんかなれないんだ。
だってこれは仲井の気持ちなんだから!
半狂乱になっていると、ぼくの目の前にそっと串団子が置かれた。顔を持ち上げると、「俺からの奢りっす」男子高生店員が満面の笑顔を浮かべて見下ろしてきた。
「何が遭ったか分からないっすけど、元気出してくださいっす。お茶のおかわりもどうでしょうか? お友達さんと一緒に」
これも俺からの奢りっす。
人差し指を立てる男子高生店員の優しさにぼくは感動した。
仲井のばかたれ!
落ち込んでいるお友達に、これくらいの優しさを見せたらどうだい!
今ならこの子が天使に見える!
「君いくつ?」ぼくとお茶しない? ねえ、ぼくの話相手になってくれない?! てか、もう人生相談に!
胴に縋って、看板くんに尋ねる。
「ええっ?」頓狂な声を上げている看板くんに、「こいつったら酷いんだ!」優しさもクソもないんだよ! ビィビィ泣き言を漏らす。
「お客様っ、あの、その」
「奢るから。是非とも君にお茶を奢るから! ぼくは今、人の優しさに飢えているんだ!」
嗚呼、そんな看板くん!
お仕事があるからだなんて言わないでっ、ぼくを見捨てないでっ、ちょっとお話し相手に!
足を踏ん張って去ろうとする彼を阻止するぼくに、男子高生店員はすんごい困っていた。
傍らでは。
「(馬鹿が。貴様が目立つから、落ち着かせるためにサービスをしてくれたのが分からないのか? 浮気などと言ったせいで、非常に目立ったではないか)はぁあ…、こいつと喫茶店に来たのが間違いだった。本当に部活をこいつと立ち上げて良いのだろうか?」
更にお得意様二番席では。
「豊福め。誰の許可を得てっ、男に…、男に触れられているんだい? まったくもって困った婚約者だよ。仕置きが必要だな」
仲井がぼくと此処に来たことを後悔し、湯飲みを握りつぶさんばかりに憤っている男装女子高生がいたとかいなかったとか。
To be Continued...
20121211
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