[携帯モード] [URL送信]
01-24
 
 

【和風喫茶店・いづ屋】
(PM5:35)



「いらっしゃいませ。お客様、何名でしょうか?」

 
 
さすがは人気喫茶店。
 
駅近くにある“いづ屋”はどの時間帯に足を運んでも込んでいる。
 
 
今の時間帯は学生さんが帰宅する時間のせいか、女子高生や女子大生、それに若いカップルの姿が目立つ。

野郎組なーんてぼく等以外にいない。嗚呼、なんだろう。この胸にじんわりと広がる虚しさと寂しさは。

 
いや、いいんだけどね。
この前なんてぼっちで来たんだし、いいんだけどね!

 
幸いなことに店員は男だった。
 
この前もこいつに接客してもらったんだけど、多分ぼく等と同じ歳なんだろう。

顔立ちといい、雰囲気といい、なんとなく高校生っぽい。

にこっと笑ってくる店員のネームプレートを一瞥すれば『豊福』という文字が。
全店員統一であろう甚平風の制服を身に纏っている。
 
 
「二人だ」ぼくの代わりに仲井が言うと、「禁煙席で宜しいでしょうか?」と質問された。

ぼくも仲井も煙草は吸わないし(高校生だし)、ぼくは煙草の臭いが苦手だから喜んで禁煙席にしてもらった。
 

「メニューはこちらになっています。お決まり次第、お呼び下さいっす」
 
 
あ、やっぱりこの店員は高校生だ。
 
ぽろっと口癖が出たところからして、社会人ってわけじゃなさそうだもんな。
 

「豊福くん。お得意さんが2番席に入ったよ!」


厨房から声が聞こえると、「はーいっす」店員は返事してぼく達に会釈。席を離れて行った。

「まだまだ若いな」初々しい接客だと仲井が評価を下す。

悪くはないが言葉遣いに減点だな、とか口にしていた。
お前はお幾つで何様だよ。呆れてつつ、ぼくはメニュー表を開いた。


「けど、あいつ。どうやら店の看板くんみたいだぜ」

「むっ? 何故そのようなことが分かる? 看板とは二枚目がするものだろう? あれはどう見ても普通……、のような。三枚目とまではいかぬが」


チラッと仲井が店員に視線を向けた。

分かってないな。ぼくは肩を竦めて、よーく空気を読んでみろよ、と助言。高校生店員に視線を流した。
  

「さっき厨房でさ。お得意さんが入ったって言ってただろ? それを忙しい最中、あの店員に頼むってことはそれなりの看板くんだってことなんだ」


ふーん、お得意さんはどうやらぼく達と一緒で高校生、か。

店側がお得意さんにしているってことは、相当あの高校生は店に出資しているとみた。
 
ぼくは学ランを着た男子高生をチラ見。宝塚みたいな顔立ちのそいつはイケメンに属するようだけど…、ん? なんだろうか? この違和感。男、だよなあいつ。短髪だし。

……いや、あれは男じゃないぞ。学ランは着てるけど胸のふくらみは女だ!

 
うっはー、男装しているのかよあのレディ! そんな女の子、はじめて見た!

どんな男装している男子(女子)高生といづ屋、で、お得意さん。
 
どんな関係柄なんだろう? 他人事ながらちょっち気になる。
 
 
と、学ランを着た男子(女子)高生が接客している店員の腰をこっそり撫でた。撫でているところを見てしまった。家政婦ならぬナカイ組は見た!

 
「あれはセク、ハラ、か?」

「あー…あー…、多分」

 
「ひぃ!」悲鳴を上げる高校生店員は、やめてくださいよ。此処はお店なんっすから! とかなんとか言って半泣きになっている。

「減る物じゃないし良いじゃないか」

満面の笑みを浮かべているお客に、そういう問題じゃないと店員はより一層べそを掻いた。

今は忙しいんっすから! とかなんとか言っている店員の哀れなことと言ったらもう、同情しか湧かない。
  
 
「……中井英輔。世の中の恋愛観は時に理解ができないものだな」
 

仲井がものすっごいしかめっ面をして腕を組んだ。

見てはいけないものを見たって顔をしている。
 

取り敢えず、あの店員の名誉のため、男子(女子)高生の名誉のために、ぼくの気付いたことを教えてやることにする。


「安心しなよ。あの男子高生は女の子みたいだから」

「むっ? 女性には見えぬが」

「胸のふくらみを見れば分かるって。まあ、なんで女の子が男の子にセクハラしているのかは、ぼくにも理解しかねるけど。こういう場合は何も見なかったことにしてやる。それが優しさってものだよ、仲井くん」
  

「それもそうだな」首肯して仲井はメニュー表に視線を戻す。ぼくもメニューを覗き込んで、どれにしようっかなーと目配り。
 
その間にも背後でお客と店員の攻防戦が聞こえてくるけど、なあんにも聞こえない振りをした。これがぼくと仲井の優しさだ。
 
 

[*前へ][次へ#]

24/27ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!