01-23
「それに、ぼくをここまで突き動かしたのは君の気持ちがあってなんだ。つまり、半分は君の責任だよ」
きゅっ。
スニーカーの紐をきつく結び、上体を起こしてブレザーにポケットを突っ込む。首を捻って頬を崩した。
「ま、メンドクサイんだけどな。一から部活を作るとか。けど、楽しいそうじゃん。Mハゲを見返してやろうぜ」
ぱちっとウィンクしてやると、あっ気取られていた仲井が柔和に笑みを作った。
「メンドクサイなら」
最初からしなければ良いのにな。
皮肉は相変わらず、けれど表情は今までに見たことのない柔らかなものだった。
今なら分かる。仲井はぼくに少しだけ気を許してくれたんだ、と。
レベル的にいえばゴキブリから蛾にランクアップしたってところかな? あんま嬉しくないけど。
「だってよ腹が立たないか? あのMハゲ。ムッちゃんにあーんな嫌味を飛ばすなんて。高値になんなら、最初から和室を作るなって話だよな? しかもガキで溢れかえっている高校に!」
「まったくだ。こちらは掃除までして綺麗にしているのに」
下履きに履き替える仲井は不貞腐れたような面で文句垂れた。
「だよなぁ! 文句を言うなら、まず掃除して来いってんだ。あの汚さは金を取ってやりたいくらいだったしな。Mハゲめ。三角巾でハゲも隠せそうだし」
「頭の手入れに夢中になっていて、和室まで気が回らないのではないか? あのMハゲ」
視線をかち合わせ、ぼく達は笑声を上げた。それはそれは昇降口を満たす大爆笑。
目尻に涙を浮かべて、「ひっでぇの」ぼくは仲井の言い草に、「貴様ほどではない」仲井はぼくの言い草に、腹を抱えて笑う。
仲井の気持ちと返事は聞けていないけれど、聞くほどでもないかな。
「仲井くん、これから駅近くの“いづ屋”に行こうぜ。まだ行ったことないんだろ? あそこの抹茶、ほんと美味いんだって。ミーティングを兼ねて行こうぜ」
「それは良いな。おれもあそこには行きたいと思っていたのだ。折角の機会だ。茶を堪能してみたい」
やれやれ、これから忙しくなりそうだ。
苦手も苦手な仲井と何処まで出来っか分からないけどさ。やれるところまでやってみようと思う。
めーんどくさいけどしゃーないよな。
自分で言い出したんだ。
文句を言われるなら、言われないような環境を。
お遊びと勘違いされるなら、されない光景を。
好きと言える場所がないなら、場所を作ってやるさ。
仲井の、この気持ちを持っている限り―――…。
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