01-22
「おい、中井英輔。あれは本気で言ったのか」
昇降口まで足を伸ばしたところで、仲井の腕がぼくの手からすり抜けた。
立ち止まって息を弾ませる仲井は冗談じゃ済まされない事態になったぞ、と責を追及するような眼を向けてくる。
普段からチャラチャラしているぼくだから、仲井にとってあの提案は勢いとノリと安易な気持ちで発したものだと思えてならないようだ。
「本気さ」腰に手を当て、ぼくは即答した。
冗談でMハゲやムッちゃんの前で宣言できるか、肩を竦めておどけてみせる。
「君だって遊び程度で見られるのは嫌だろ? 個人で動けば遊びだと見られる。なら、組織を作っちゃえばいいんだよ。そうすれば、誰も遊びだなんて言えなくなる。違うか?」
仲井はやや遅れて返事した。
「確かに部を作れば、思われなくかもしれん。だが、」
「ならいいじゃんか。大体Mハゲは勘違いしてるんだよ。君がお遊びで茶を嗜んでいるとか。ムッちゃんの厚意が学校の迷惑とか。本当にそうなら、もっと馬鹿騒ぎして和室を小汚く使ってるっつーの」
それに君の茶道がお遊びなら、全国の茶道部の皆さんだってお遊びと称されるんだぜ? 失礼しちゃうよな。
鼻を鳴らして、上履きから下履きに履き替える。
まだ動かない仲井は躊躇いを含めながら、「貴様の気持ちは」おれの気持ちなんだ。それは知っている筈だろ? なのに何故こんなことをしたんだ。元に戻ったとしても貴様には何もメリットなんてない筈だ、と質問。
スニーカーの紐を結ぶためにしゃがんだぼくは、相手の疑問を受け止め一思案。結ぶ手は止めない。
「ぼくさ。合コンのセッティングが上手いんだ」
的外れな返答に仲井が不満そうに口を開いたけど、ぼくは無視して口を動かす。
「面子を見て場所や時間、誰とどう絡ませようか水面下で考える。これが幹事の鉄則。盛り上げ役も担当しちゃったりしてさ。気を回さなきゃなんない役回りなんだけど、わりと楽しかったりするんだ。で、皆が楽しかったって言ってくれたら万々歳。マージ嬉しい」
楽しかったら、また次もセッティングしてやろうって思えるじゃん?
おんなじなんだ、今回の件も。
合コンと一緒にするな。君はそう言って怒りそうだけど、ぼくは思うんだよ。
個々人で楽しい時間って奴は違うけど、皆、楽しい時間は過ごしたいもんだし、好きなもんは好きなんだって胸を張りたいもんだって。
なんとなく、悔しかったんだよ。野津地にあんなことを言われたことが。
ぼくが言えた義理じゃないけど、君のお茶に対する気持ちは今のぼくが一番知っている。
だからこそむっちゃ悔しかったんだ。
んでもって君が否定的になったことにカチンだった。
べつに悪いことをしているわけじゃない。
好きなことなんだ、堂々としてやりゃいい。なのになんで、否定的になんだよ。腹が立った。
だから堂々と好きだと言える環境を作りたくなった。
余計なお節介かもしんないけど、このままMハゲに陰口叩かれて和室を使うよりかは気分がいいだろ? ムッちゃんもその方が嬉しいと思うし。
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