01-21
次いで、「向井先生ー!」
ハイテンションで先生の名前を呼んだ。
それこそ女子みたいにブンブン手を振って、先生の名前を連呼。
語尾にハートマークをつけて彼女の下に駆け寄る。
「中井英輔っ」後から出てくる仲井を総無視すると、「捜しましたよ」今日も和室の鍵を借りようと思って、と猫なで声で意思を伝える。
途端にMハゲが咳払いしてきたんだけど、ぼくは気付かぬ振りをして野津地にご挨拶。
「あ、どうも。和室を借りている1年4組の中井英輔でーす。今年でぴっちぴちの16でーす。いやぁ、この学校には立派な和室があって助かっているんですよ」
このノリは合コンで培われたものである、まる。
よって相手の気を逆立てることに成功。向こうの怒りのボルテージがグングン上がっていくのが分かる。
怒れば怒るほど、相手のドツボにハマることを知らないな? この中年親父。
心中で鼻を鳴らしつつ、ぼくは向井先生と視線を合わせ、「あの話を実行しようと思うんですよ!」前触れもなしに話題を振る。当然、向井先生はキョトン顔を作った。
「なあ? 仲井くん」
遅れて隣に立つ仲井にも話題を振る。勿論こっちもキョトン顔だ。
そんな仲井にまったまた惚けちゃって、肘で小突いて「あれだよあれ」と話題を押し付ける。
頭上がハテナマークがいっぱいになっている仲井にしょーがないな、照れ屋な君に代わって伝えてやるよ。
ぼくは相手の首に腕を回して、笑顔を作った。
「部活だよ部活。忘れちゃったのか? ぼくと君で茶道部復活の道を極めようって約束したじゃないか。あの日の夕陽を眺めながら!」
「ぶ、かつ?」まさかお前…! ぼくの意図が分かった仲井が何かを言う前に、その口を手で塞いで、「ぼく達。頑張っちゃいますよ先生」立派に茶道具を使いこなして見せます! とウィンクする。
向井先生も意図が分かったのか、瞠目。
次いで、柔和に綻んで「そうですか」だったら私は久々に顧問をしましょうかね、と目尻を下げてくる。
そうこなくっちゃ!
「だけど先生。ぼくは考えたんですよ。ただの茶道部じゃおもしろくないって」
どうせなら、色んなお茶に関わりたい。
だってこの世の中は沢山のお茶で溢れているんですから!
だから茶道部復活を限定にするのはやめようと思うんです。
今の時代は国際社会! フリーダム! 茶道部とはちょっと変わった部活を作ったらおもしろいと思いません?
色んなお茶に関われる部活を作りたい。
仲井くんは、いえ、仲井くんとぼくはお茶が好きなのですから!
今はぼくとこいつしかいないから、部活じゃなくて同好会になると思うんですけど、顧問の先生も楽しめる部活を作っちゃいますよ、ぼく達!
「楽しみにしておいて下さいね。頑張って盛り上げようと思いますから! よーし、仲井くん。今からミーティングしようぜ!」
眼鏡をずらしながら、ぼくの手の中でもがもがと言葉を発している仲井に視線を流す。
目が貴様は何を考えているんだ。何をしてくれているんだ。本気なのか馬鹿! と、訴えかけてきている。
とーぜんマジと読んで本気さ。でなければ、
こんなめんどくさくも馬鹿げた提案なんてしないよ。
口角を持ち上げてニッと笑いかける。困惑している仲井に、「頑張ろうぜ!」親指を立てた。
Mハゲが文句を言いそうな雰囲気を醸し出してきたから、「じゃ。ぼく達はこれで」と挨拶して敬礼。
借りようと思っていた和室の鍵はやっぱいいです。今日のミーティングは別の場所でしますんで。
また、詳細が決まったら連絡しに来やす。楽しみにしちょって下さいな!
「向井先生、顧問は宜しくお願いしますね。あ、なんか堅苦しいからムッちゃんがいいかも。……うん、そうしよう。じゃ、ムッちゃん! また来るぜ!」
ばいちゃ!
片手を挙げ、仲井の腕を引いてぼくは駆け出す。
自分には挨拶をしないのかとMハゲが舌打ちをしていたけど、んなこと知ったこっちゃない。
ぼくの心は決意でまみれていた。
メンドクサイことをしたって自覚はあるけど、どうにもこの感情は抑えられない。部活を作る、その気持ちはどうしても。
だっておかしいじゃないか。
和室を使用したってだけで文句、茶道具を触っただけで文句、だなんて。
元々廃部になった茶道部のためにある部屋と道具だろ?
だあれにも使われなくなって埃被っていたところを、仲井の行動力とムッちゃんの寛大な心によって、本来の姿に戻ることが出来たんだ。それを誰彼に文句言われる筋合いはない。
それに。
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