[携帯モード] [URL送信]
<2>放課後のティーターイム


▽ △
 
  
 
「トウモロコシ茶の淹れ方? なんだ、貴様はトウモロコシ茶にまで手を出したのか?」
 
 
翌日の中休み。

熟読していた文庫から目を放した仲井は、ぼくの質問に顔を上げ、意外そうな眼を寄こしてきた。

誰のせいでこんな気持ちになったと思っているんだい。
アータの茶に対する気持ちのせいなんだけど。
 

毒づきたい気持ちを抑えつつ、ぼくは仲井の机に腰掛けて腕を組んだ。


「美味しかったっちゃ美味しかったんだ」


でもさ、折角なら美味しく飲みたいじゃないか。頂きたいじゃないか。味わいたいじゃないか。


と、右の人差し指を天井に向けて語尾にハートマークを添える。


完全にスルーしてくれやがった仲井は、「後で紙に書いてやる」と言って机から退いて自席に戻るように命令してきた。


目障り、消えろ、離れろって意味か? それ。
 
 
素っ気無い仲井に吐息をつき、「なあ。メアド教えてくんない?」文庫の世界に戻ろうとするキャツに申し出た。

「はあ?」ワケが分からないとばかりに眉根を寄せてくる仲井に、「だってさ」連絡知ってたらすぐに聞けるじゃんか、ぼくはご尤もなことを述べる。


「こうして一々学校に来ないと聞けないとかもどかしいし、メアド教えてよ」
 

仲井はぼくを見据えたまま返事しない。

目がナニ言ってんだこいつ? って訴えかけてくる。
悪い事を聞いているわけじゃないだろうに。
 
「ナニ? 携帯持ってない感じ?」

気付かぬ振りをして相手に返事の催促を促すと、「いや」自宅に置いていると返される。


「んじゃ教えてって。悪用するわけじゃないし、極力メールで聞くからさ」

「中井英輔。昨日、貴様に言った筈だぞ。元の気持ちに戻ったら、貴様とは金輪際関わらない、と。連絡先を教えてしまったら戻っても関わりを持ったままだ」

 
つまり、ぼくに教えたくないわけね。どんだけぼくが嫌いなんだい、この男は。


だけどぼくはめげなかった。
 
こいつだって監視官のようにぼくに付きまとっているんだ。ぼくにだって好き勝手する権利は持っている筈だ。
 

「チェンジしている期間だけでいいから。元に戻ったら、着信拒否してもいいし、メアドだって迷惑メールに設定していいし。メアドを変えてもいいじゃないか。不都合なことはしないって約束するから、な?」


あ、こいつ。
 
ダンマリしているけど、あからさま嫌だぜオーラを出してやがる。

ぼくがイタ電をする男に見えるってか? まったく。
仕方がない、こうなったら男版泣き落とし、いってみるか。


「そうか。仲井くんは、ぼくにお茶を飲むなと言っているんだな。ぼくは君の気持ちを穢さないように、お茶を愛そうとしているのに。少ない小遣いをはたいてまでお茶を飲もうとしているのに。美味しいお茶が飲めないなんてっ、こうなったら、ぼくは、ぼくはっ…、今日から珈琲マスターになってやる!」


今日からお茶は飲まないっ、ぼくは珈琲を愛してみせる!
 
「手始めに自販機の珈琲を片っ端から飲んでやる!」

元に戻った仲井くんが珈琲好きに目覚めても知らないんだからな! 相手に言い放ち、ぼくは泣き顔で全力Bダッシュ。

今のぼくの表情はきらきらと無駄に輝いている少女漫画チックだと思われる。


「なっ! ちょ、待て!」仲井が立ち上がったけど、知ったこっちゃない。ぼくは教室を飛び出した。向かう先は一階中庭の自販機前!
  

階段を二段越しに下りて、三階から一階まで下りたぼくは迷わず中庭の自販機前に立つ。

懐が寒いぼくには痛い出費だけど、人を散々振り回した挙句、嫌いですオーラをぶつけ続けてくれたキャツに一泡ふかせたい。


ということで、小銭を投入。
人差し指が危うくウーロン茶に伸びそうになったけど、自分の意識をしっかり持って缶珈琲(微糖)をお買い上げ。


背後に人の気配を感じたところで、グズグズと鼻を啜ってプルタブに指を掛ける。
 

「今はお前のことを友達くらいにしか思ってないけど、もうすぐ恋人並に愛してやるからな」
 

そしてさよなら、ぼくが愛した…、わけじゃないけど、ぼくが愛したお茶達。君達とは永久にさよならさ!

高らかに宣言して飲み口に口をつける。


「お、おい…、中井英輔」

 
追いついた仲井がそろーっとぼくに声を掛けてきた。

「そっとしておいてくれ」ぼくは真剣なんだ、と缶珈琲を見据えて意気込む。
 
 

[*前へ][次へ#]

10/27ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!