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00-08


ががーん。


私は大ショックを受けた。

円ともあろう箱入り娘が(と私は思っている)、不良に恋心を抱くなんて。


基本的に円は良い子ちゃん。

内気でおとなしめな子なのに、あろうことか不良に心を奪われているなんて!


このショックを例えるならば、手塩にかけた娘をどこぞの馬の骨とも分からない男に取られてしまった親父の気分。


チャラ男どころか不良に私の円が奪われているなんてっ、うがぁあああっ、どっこのどいつ!

不良なんて私の空手で伸したる!
 

奥歯をギリギリと噛み締める私を余所に、乙女チックに頬を赤く染める円は今日も会えるかもしれないと照れ照れに一笑した。

「お兄ちゃんの同級生でね」

身なりに構わず、とても優しい人なのだと円は教えてくれる。

そっかそっかそっか、身なりに構わず優しい、ね。


微笑ましいと思うけどさ、けどさ、相手は不良でしょ。不良さんなんでしょ。


目を覚ませと叫びたくなる私を余所に、

「まだ二人では喋ったことなくって」

いつか喋れる日が来るといいな、夢見る乙女は桃色オーラをいかんなく発していた。
 

こ、これ以上私の胸を抉るような発言はよしてくださいっ、円さん。

結構ダメージ大きいよ、私。
 

どーんと暗くなる私なんてそっちのけで円は、「いつか会わせてあげるね」と頬を崩してくる。

喜ぶべきなのか、それとも嘆くべきなのか、際どいところよね。


取り敢えず、その“いつか”に期待しておこう。

それでもって見極めてやるんだ。

そいつが円の心をどう奪ったのかを。


変な手を使って円をたぶらかしたというのならっ、ええい、どうしてくれようか!


煮えたぎる気持ちを抱きながら私は円と昇降口を後にし、正門を潜って学校を後にした。


恋の話題は昇降口っきりで、帰路を歩いている途中は他愛も無い世間話に花を咲かせた。

例えば今日あった授業のこととか、昼休みの話題とか、好きなドラマの話だとか。


すぐに忘れそうな話題を飛び交わせ、私は交差点で円と別れた。

これから円は塾、私は空手教室だ。


「またね」手を振る円に、「明日ね」私は笑みを浮かべて彼女に手を振り返した。


その際、


「あ、みよ子。明日空いている? 空いていたら、マック行こうよ!」

「女子会だな? オーケー! その誘いに乗ってあげる。詳しいことはまたメールでね。今晩メールするから」


まさか、この会話が円と交わす最後のものになるなんて夢にも思わなかった。
 
「不良に恋ねぇ」

私はやれやれと肩を竦め、空手教室に向かう。

不良に恋する円の気持ちがイマイチ分からない。


だって不良ってドラマや小説じゃカッコイイ存在として扱われているけど、リアルにいたらはた迷惑もいいところじゃない?

やたら群れたがるし、煙草なんぞ吸うし、マナーも悪いし。
 

人格に問題ありな奴等ばっかりよ。


例えば、あ、そこの交差点の横断歩道前。

信号待ちをしている不良に視線を流し、私は鼻を鳴らした。

なんかいかにも悪そうな不良が立っている。


髪を奇抜な水色なんかに染めちゃって。

目に痛いっつーの。


日本人に水色髪は論外よ論外。和顔に黒や茶髪以外の色は似合わないわ。


ヤダヤダ、不良なんて関わりたくもない。




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