三枝円の事故
◆ ◆ ◆
三枝 円。
名前を聞いただけで想像がつくと思うけれど、彼女は三枝旭の妹だ。
そして私の大親友でもある。
三枝円のこと円は小学校高学年からの付き合いで、中高共に同じ学校に進学した幼馴染のような存在だった。
彼女はマイペースで何かと内気な性格、文学少女で性格的には正反対だったけれど、活発的な私と馬が合って毎日のように側にいたし遊んだ。
誰よりもかけがえのない友達だったんだ。
円になら言えない自分の秘密も、醜悪な部分も、悩みも全部打ち明けられる。
彼女が私にそうしてくれるように、私も彼女になら何でも吐露できる。
両親以上に私を理解してくれる理解者だった。
勉強がすこぶる苦手な私に、勉強を教えてくれてなんとか円と目指していた公立高校に入学できた私は、口癖のように「次は大学で一緒だ」と言っていた。言っていたのに。
数日前、円は交通事故に遭ってしまった―――…。
「みよ子。今日も空手教室に行くの?」
それは事件当日・放課後のこと。
授業を終えた私はいつものように身支度をしていた。
すると円がひょっこりと私の視界に顔を出し、空手衣を持参している私に空手教室に行くのかと声を掛けてくる。
首肯する私に、「空手衣持参なんて」みよ子らしいわね、と円が苦笑い。それはどういう意味よ。
どーせ私は女子力皆無ですよ?
ロングヘアと胸と腕力だけが取り得の、女子力皆無女ですよ?
円みたいに髪を長く伸ばしてオンナってのを目指そうとしてみたけど、てんで駄目。
私、オンナって生き物に生まれたこと間違いだったんじゃないかなぁ。
円より胸はあっても、女子力ないんじゃ、この胸をただの脂肪よね、脂肪。
「悪かったわね。胸が小さくて」
眉根をつり上げてくる円に、「あ。口に出してた?」ごめんごめんと両手を合わせる。
もうっと膨れ面を作る円は長い髪を肩後ろに靡かせた。
その仕草からしてオンナってカンジがするのよねぇ、円は。
私でも円となら付き合いたいと思うもん。
いっそのこと男になろうかしら、私。
「ねえ、円。私と付き合わない? いい思いさせてあげるよー?」
「まったそういうことを言う。少しは男子に興味を持ちなさい。私を口説いたって一緒よ。ほら見なさいよ、向こう」
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