00-09 鼻を鳴らして私は頭の後ろで腕を組む。 私の地元って荒れているわけじゃないけど、不良が少ないってわけでもないのよね。 きっと住んでいる地区が都市部だからだろう。 まさか円が不良に恋しているなんてっ、大事な友達を貶されたような気分に陥り、私はついつい深い溜息をつく。 信号が変わった。 横断歩道を渡った私は目抜き通りを歩く。 鬱々とした気持ちで歩いていたせいか、ろくに周囲に目も配らずにある通りの角を曲がり、刹那。 ドンッ―。 物の見事に人とぶつかった。 「きゃっ!」「うわっち」 二つの声が通りに響く。 ぶつかった拍子に鞄の中身をぶちまけてしまった。 でもそれを拾う前に私は相手に謝罪した。 完全に余所見をしていた私に非があると分かっていたから。 ぶつかってしまった通行人に詫びて顔を上げる。 顔が硬直してしまったのはこの直後だったりする。 だって目の前には不良が、またしても不良が。 なんで今日はこんなにも不良に恵まれているのだろう。 すべては円の爆弾発言のせいに違いない。 目前のキンパ不良…、いやいやキンパ赤メッシュ不良は「あっちゃ」やっちまった、と急いで教科書類を拾い始める。 我に返った私も慌ててそれを拾い、何度も相手に謝罪。 こういう輩は下手(したて)に出ておかないと面倒なのよね。 喧嘩に持ち越されたら勝てる自信はあるけど(だって空手を習っているんだし!)、まずは素直に謝罪。 相手の出方を窺おう。 謝る私に、「んにゃ気にしちゃねぇよ」俺も余所見してたしな、と、わりかし素直な反応を頂戴する。 チラッと視線を向ければ、容姿端麗な顔がそこにはあった。 これぞイケメンと呼ぶに相応しい不良だろう。 (まさか円、こういう容姿の整った男に惚れているんじゃ) 顔は所詮顔で終わると思うんだけど。 口をへの字に曲げていると、「ほら」相手が拾った教科書やノートの束を差し出してきた。 「ありがとうございます」 いそいそと頭を下げると、相手は立ち上がってこっちも悪かったと詫びを口にしてくる。 見れば見るほどイケメンね、この不良。どこまで言っても不良は不良だろうけど。 てか、何より金髪に赤メッシュを入れているってところが…、派手なドドド不良ねこいつ。 こういう不良ってわりと下っ端をこき使う傾向があると私は睨んでいる。 まあ、口には出さないけど。 「ん? 俺の顔になんかついてっか?」 ジトーッと見(睨み)過ぎたらしい。 相手が訝しげな顔で私を見つめ返した。 「え、いえ」 なんでもないですと誤魔化し笑いを浮かべ、私は本当にすみませんでしたとその場を後にする。 「変な奴だな」 肩を竦めているキンパ赤メッシュ不良に、私は心中で猛省。ガン見し過ぎた。マジ失敗。 (それにしても忘れられない、イケメン不良だったわね。タイプじゃないけれど) というか男のタイプってよく分からないけど。 円、本当に不良に……、私、円の将来が不安になってきた。 だって不良と付き合ったばかりに人生を駄目にするってよくある話じゃない?! 苦虫を噛み潰す気持ちを抱きながら私はツイていないと、速足で空手教室に向かった。 「あ。此処にいたのか、ヨウ。……なんかあったのか?」 「ケイ。んにゃ、なんでもねぇよ」 背後からさっきの不良と誰かの会話が聞こえたけれど、右から左に聞き流すことにした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |